プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第150回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか DX時代の命令(その10)

前回は、DX時代の命令についてこれまで述べてきた7回分のまとめ(その2)を述べました。ここでは、まず仕事(業務)の大前提として二つのことを取り上げました。

・全ての業務は何らかの成果物を生み出す 
・全ての業務は命令で動くようになっている


成果物とは仕事の完了時にでき上がっているモノや状態のことでした。つまり、業務(仕事)には成果物と命令が欠かせない二つの条件が必須であると言うことになります。
前回はこの他のこととして成果物を的外れにさせない命令のやり方について述べました。的外れでないということは的をぴったり射た仕事ということになります。こう言えば「効率が良いことですね」と受けとられますが、それは違います。効率と効果は別のもの、異なる概念です。その差異について今回説明します。また、前回においては情報流通のスピードが前提となることも述べました。これはまさにDX時代ならではのことでした。
今回は、DX時代の命令について最終回としてのまとめ(その3)を述べることにします。

【1】効率と効果は別ものである
我われの日常会話でごく普通に「効率が良い(効率が高い)」はひんぱんに使われます。熱効率、面積効率、顧客回転率など様ざまな効率指標があります。時間あたりにどのくらいの出来高が生み出されるかもまさに効率指標のひとつですね。これに反して効果(効果性)はほとんど出番が無いように感じます。効果(効果性)とは的を射ているかどうか(的外れでないかどうか)を示すものです。例えば東京にいて大阪に出張すべきなのに、仙台に出かけたら的外れです。移動手段として飛行機、新幹線や深夜バスなどがありますが、行き先を間違えたら(的を外したら)、移動手段の効率性を論じることは無意味になります。

【2】自動化と働き手の関係
自動車の組立ラインでは、分業化で効率を高めることは当たり前の発想でした。これに対して働き手(組立)作業者の意欲を高めるために、効率は落ちても少人数のチームで組立作業の全ての工程をやることにして、そのチームで完成車になるまで手がけるやり方がありました。つまり、担当するチームメンバーの達成感を高めるための工夫でした。広く普及することはありませんでしたが、効率性よりも効果性を重視した取り組みのひとつでした。この事例で効率性と効果性は相反する関係にありましたが、このような相反を両立させるような工夫や取り組みも必要であり継続して追求されてきました。そして、わが国ではこのような工夫や取り組みが「カイゼン」として実践されています。これはわが国では当たり前のこと、常識として受け止められていますがじつに素晴らしいことです!これはわが国全体の高い知性の賜物と言えるのではないでしょうか。世界に誇るべきことですね。

【3】効率と効果を共存・両立させるための情報流通のスピード
これらの共存・両立は難しいことではありますが、上述したようにわが国のカイゼンはこれをりっぱにさばいてきました。DX時代になり、情報流通のスピードが前提となることを前回述べました。そして「情報の質を問題にする前に、まずは量が大事である」という中小企業経営者の卓見を紹介しました。何が組織にとって重要な情報であるかは必ずしも共有されているとは限りません。別に秘し隠しているわけでは無いにしても、組織全体で共有することはなかなか難しいことです。社内のネットやさまざまな会議体、チームミーティング、始業時の朝礼などを使って「何が共有すべき情報か」を周知することが欠かせません。カイゼンの5Sについて、5つ目は「しつけ(規律)」です。DX時代においては、さらに情報流通のスピードということで「スピード」を追加して「カイゼンの6S」に発展するのではないでしょうか。