プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第146回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか DX時代の命令(その6)

前回は、仕事、作業、業務とは何か、その定義を述べました。上位から業務→仕事→作業という階層になり、より細分化されることになります。そして、どの階層においても上司の意図と部下の任務はセットになっています。これらは定常的に行われるので、いちいち命令などというコミュニケーションはとられません。毎日の業務開始のとき、例えば朝礼などで確認されますがきわめて短時間です。そして、その場合は品質・コスト・納期(QCD)などの確認といったことになるのが普通です。

今回はこの続きになります。定常的な場では業務命令や職場のルールが必ずしも明示されないので職場によっては自分勝手に行動するなどカン違いをする従業員(ヒト)が現れます。こういう状況は結果的に職場の規律を損ねることになります。このような状況を放置しておくと、QCDはもちろんのこと、その職場だけでなく組織全体に望ましくない影響を及ぼします。そのために定常的に必要なコミュニケーション、つまりどのような命令またはそれと同じ働きをするものは何か、それをどうアピールするかについて述べることにします。

【1】5S活動の目的は何か
5S活動はご存じのようにシンプルな5つの事項から構成されています。整理・整とん・清掃・清潔・しつけです。これらは次のように三つに分類できます。

整理、整とん、清掃・・活動のために継続的に必要となる実践(行動)
清潔      ・・これらの行動によって実現すべき清潔な職場環境
しつけ     ・・活動によって獲得を目指す組織のしつけ(規律)


5S活動によって整理・整とん・清掃という実践を継続すれば、清潔な職場環境が実現する。この関係性はたいへんわかりやすく、どのような職場でも受け入れられるように思われます。つまり、4Sまでは5S活動の狙いが明快に感じられます。しかし、筆者としては、最後のSである規律については、それを獲得するまでにさらに格段に大きな努力が必要と考えています。言い換えれば、4Sと5Sの間にはかなり大きな道のり(ギャップ)がある、そんなふうに感じます。5S活動を継続すれば清潔な職場環境とともに規律ある組織を獲得できる、これは決してかんたんなことではありません。4Sから5Sの間にあるギャップは大きい、そのように感じます。例えば、ここで職場を小集団(チーム)、組織を企業全体と言うことにします。職場の規律と組織の規律は、必ずしも一様ではありません。職場によってかなりのバラツキがあります。これについての問題点を次に述べることにします。

【2】職場の規律と組織の規律
組織トップ(例えば社長)の考える組織の規律は、職場でどのように理解されているのでしょうか。次は筆者の体験です。自動車会社に勤務していたとき、他部署の部長の発言を聞いて驚いたことがあります。「社長はこう言われるが、私はそれとは逆のことをしている」、これを聞いて部長職にある者としてそんなふうに公言してよいものかと驚くと同時にあきれました。社長の指示内容の解釈の相違で「逆のことをしている」ことはあり得ます。しかし、そういう事情があったとしても公言すべきではありません。こういう大っぴらな発言は間違いなく組織の規律を乱すもとになります。

会社で決めた基準やルールがあるのに無視する行為はさすがにまれですが、前向きに考えようとしない姿勢や行動があります。業務についてベテランだからといって自分の狭い料簡だけでやることも上記と同罪と言えます。例えば、製品の品質と出来高の関係は相反することがよくあります。丁寧な仕上げにすれば出来高は減って納期に間に合わない。納期を守るように指示すると品質は保証できないとあからさまに言い張る(反論する)。このように相反することについての問題解決こそ、現場カイゼンの最適な出番であるにも関わらずそれはしない。こういうベテランが職場のリーダークラスに存在するとやっかいです。こういう場合、ボート経営式に「おまえはクビだ、すぐ出て行け」という解決策はわが国では法律的にもありえません。これまで述べてきたように命令的なコミュニケーションはわが国ではあまりうまくいきません。どうすべきでしょうか。5S活動そのものにカギがあります。

【3】命令ではなく規律から始める
社長(経営陣を含む)の指示や命令はなるべく最小限にします(もちろん、職場の安全を損なうことやリコールにつながる行為はここでの対象外です)。ヒトによる指示や命令ではなく、5S活動で獲得する規律を指示や命令の上位に位置づけることにします。ヒトよりも上位の神さまのような存在にするわけです。(神さまはあくまで例えです)。清潔な職場では油モレや切削クズの放置などはご法度です。そのためには、整理・整とん・清掃は欠かせません。まず、これを充実させることが基本になります。この活動に不満でいい加減にやるヒト(とくにリーダークラス)には、ヒトの「行動や姿勢」ではなく職場が清潔に保たれているという「状態」にアプローチするのが得策ではないかという考え方に基づいています。

本連載の前回(第145回)で「上司の意図と部下の任務が共有されているか」という一節がありました。これも情報の共有がカギになっています。しかし、自分の狭い料簡だけで行動するヒトには、意図や任務などを共有するよりも、直接に自分の目に見えること(例えば清潔な職場という状態)を共有するほうが容易だろうということです。

(次回に続く)