プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第133回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか DX時代のプロジェクト(その17)

前回は、ビジネスにおける俊敏性について述べました。顧客先で不具合が発生したときの対応については、ビジネスの俊敏性が最も試されるときであることは間違いありません。ただ、このような場合でも一般的にいつでもこれが正解というものは存在しないように思われます。俊敏性とは別に、計画性について述べました。一見して両者は対極にあるような感じがしますが、両者は実のところ同じグループに属するものとして扱うべきと説明しました。課題を確実に達成するためには両者は兼ね備えておくべきものです。そして、両者を兼ね備えるとき、どうしても必要になるのが仕事の進め方の原則であるとお伝えしました。
今回は、このような仕事の進め方の原則や方針と呼ばれるものについて述べることにします。

【1】仕事の進め方  その原則と方針
原則とは、基本的な規則(ルール)のことです。例えば、初めて購入した機器について「この測定器は原則として実験室のみで使用するものとし他への移動は禁止する」などは規則(ルール)になります。このような使い方のルールを決めることは、この機器が社内の各部署で意図したとおりに使用されることを想定しているのでしょう。
こういうルールによって、新規に購入した機器を社内で効果的に使用することができます。初めにルールを何も決めないやり方もあります。この測定器が社内で引っ張りだこの存在になってから、ルールを決めてもよいだろうというやり方です。原則には「原則として~」という表現もあるくらいですから、割合に緩いルールという位置づけになります。

方針とは、計画やその行動についておよその方向を示すものです。およそと言いながら、使う場合によっては決して「およそ」ではなくきっちりした場面もありえる言葉です。ここでとり上げた「原則」よりも、幅広く多彩な使い方ができるのが「方針」です。次に紹介することにします。

【2】方針とは明確な意思表示  筆者が望ましくないと感じた事例
筆者の自動車企業勤務時代の体験です。

・工場の部長で「社長はこういう方針だと言うけど、私は(独自の判断で)逆のことをやっている」・・社長の方針があいまいだったかどうかはわかりませんが、断言する口調でした。企業方針の重みが全く感じられませんでした。これではその部に所属する人たちは「部長方針」があったとしても重みを感じることは無かったでしょう。

・新しく赴任した工場長は、前工場長の方針書が大判のポスターとして各部に掲示されていたが、それらを全て廃棄した。代わりの方針書は発表されなかった・・これらは信頼できる同僚だった社員から伝え聞いた情報です。前工場長は、方針、目的や目標について現場に丁寧に説明を尽くす方だったそうです。「工場長の交代でやる気を無くした人が多かった」と聞きました。代わりの方針書が発表されなかったことも、その真意はわかりませんでした。

【3】方針とは明確な意思表示  筆者がなるほどと納得した事例
筆者が研修ビジネスの業界で研修講師を務めていた当時の体験です。

上場企業創業者A社長・・筆者が研修ビジネス初期のころ、おつき合いしました。初対面のときA社長は教育方針を次のようにコメントされました。「本社でお客さまを見かけたら挨拶する」「電話のベルは3回以上鳴らさずにとる(2回目までにとる)」、そして「この二つができないうちはいかなる研修教育も意味が無い」、じつに明瞭な社内教育の方針を聞きました。当日筆者が提案した社内研修について「意味はあった」ようで、後日、経営幹部向けとして実施されました。

高名なスポーツ評論家で作家のB氏・・筆者が出版した「仕事は半分の時間で終わる」の執筆に際して、全体の構成や文章について指導してもらいました。B氏は公立の中学校で野球部の指導者(監督)であり、その指導方針を聞いたことがありました。①成長途上にある中学生たちに筋力トレーニングなどはやらない(健全な成長を阻害する) ②俊敏性を鍛える(捕球してから送球までの迅速化をはかる) ③礼節と学業を疎かにしない(試合時の挨拶、学校成績が基準以下で対外試合は出場不可)

以上の二つの事例を紹介しました。これらは「方針とは何か」をわかりすく説明しています。

【4】原則は盆栽にしないこと 社内教育で可能性を早期に見限らない
盆栽はわが国独自の文化です。本来は大きなものに成長する可能性を小さなものでとどめておくことの例えとして本稿では「盆栽」を使っています。企業として大きな資源投入になる教育についてせっかくの機会こそ大切に取り扱うことが重要になります。新人や若手の教育において、その成長の可能性を早期に見限らないことが重要です。

社内教育の基本的な部分は同じコースを受講させるにしても、その後は本人の適性や可能性を探りながら育てる姿勢が必要です。企業によってはソニーのように本人が希望する部署に売り込みに行かせるといったやり方もありました。技術職の人材に一定期間において営業職を担当させることなどは一般的に実施されています。筆者はクルマの販売会社に1年ほど営業出向を経験しました。同期の出向者のひとりとして製造現場所属の方がいました。営業に大きな適性がありきわめて立派な営業成績を残しました。ほどなく退職し帰省先にある販売会社に勤務、そこで拠点長を務めるほどに成長しました。この場合、社内の制度で本人が適性に気付いて可能性を自ら証明しました。わが国は少子化・高齢化という環境を迎えます。同じひとりであってもその人の適性を活かすかどうかでアウトプットは大きく変わります。経営者も従業員も仕事の適性に着目していく、この原則が欠かせません。