現場カイゼンレポート 第四回

運送費の低減 2

先回は「運送費の低減」と題して、精密計測器を作っているB社の梱包出荷作業リーダーのCさんが、箱の大きさと製品の入れ方をカイゼンして配送費用のコストダウンに成功した話をしました。Cさんは自分達の職場がカイゼンで大きな成果をあげて、工場長から褒めてもらったことをとても喜んでおられました。

Cさんのカイゼンはこれで終わりませんでした。Cさんは海外向けの大型出荷梱包も担当しており、こちらにも何かカイゼンできることがあるのではないかと考え始めました。海外向けの仕事は国内の配送とはまた違うルールで運用されていましたが、工場内にそのことを知っている人がいなかったため、コンサルタントの私に相談してくれました。

当時、私は本社の海外営業部門のカイゼン指導もしていましたので、本社指導会の際に海外営業部事務局のDさんにCさんの考えを伝えてみたところ、ぜひ一緒にやりたいと前向きなお返事をくださいました。海外営業部も出荷においてたくさんの問題を抱えていましたが、自分たちだけで解決できないことが多く困っていたのです。

そこで次の私の工場カイゼン会の日に本社のDさんに工場に来てもらい、Cさんと話し合ってもらうことにしました。まず私はお2人にそれぞれをご紹介し、Cさんに工場案内をしてもらい、お互いの仕事について話し合ってもらいました。するとお2人は両部門の協力で解決できるいろいろな問題を発見しました。例えば海外営業部が月単位で確定した週次生産計画に従い、工場は毎週決まった曜日に指示された製品を港に送っているのですが、実際には船の運行計画の変更や積む量の調整があり、そのために海外営業部側で仮置きのための倉庫を持つような形で対応をしていたそうです。毎週生産計画の変更を工場に対応してもらうのは無理だと諦めていたからです。しかしCさんとDさんは何とか解決の切り口を見つけようとカイゼン案を考え始めました。

CさんはDさんに、最近工場がカイゼンを進めた結果、生産部門は以前と較べると大幅にリードタイムの短縮が進み、生産計画をこまめに作れるようになっていることなどを伝えました。Cさんは以前なら不可能であったこまめな生産が今は可能なので、海外営業部から提示される生産計画は変えられるかもしれないとDさんに伝えました。そしてその場で、生産部門の担当者とその可能性についての話し合いをしました。すると彼らも海外営業部門が提示する生産計画が月次単位で大きいままであったことが気になっていたということで、よりこまめな生産計画に対応してみるということで合意しました。その結果、月単位で確定していた生産計画を週単位での確定に変更し、その後の生産計画の変更は生産の3日前に連絡をくれれば工場の生産部門は対応するという取り決めにたどり着きました。

当然のことながら、前回工場でやったカイゼンと同様に、現在の積載方法をカイゼンできないかの議論も行い、工場で今と違う順番でパレット梱包をするトライアルをしたところ、コンテナの余剰スペースにモノが入りムダな隙間がなくなることも発見しました。先回レポートした箱のカイゼンで培われた立体感覚が役に立ったのです。その結果、海外営業部では仮置き倉庫が不要になり、積載効率も上がりコストを大幅に下げることができました。何より効果が大きかったのは、停滞という見えにくいムダの存在が明確になり、それを排除したことで製品の出荷時間が早くなるという速度感が生まれたことでした。

前回ご紹介したCさんの国内の出荷梱包カイゼンは、少し作業スピードは落ちるが梱包箱を小さい方に統一することで運送価格を下げたカイゼンでした。即ち、これまで追求してきた速度感を犠牲にしてコストを下げたといえます。ところが、今回のカイゼンは工場の他部門も巻き込みながら、本社海外営業部と連携して月次計画を週次計画に変更する等、速度感を大幅に向上させていて、さらに大きなコストダウンを実現しました。コンサルタントの私からすると、Cさんは短期間にカイゼン力のすごいレベルアップを実現したといえます。

私はナゼCさんにこんなことができたのだろうと考えました。私が出した答は、前回の国内運送費用のカイゼンを実行したことで成長した所に、いいタイミングでこれまでコンタクトがなかった海外営業部のDさんと出会い、更に大きな規模のカイゼンテーマを見付けたからだということです。その結果、速度感とコストダウンという二つのカイゼンを全体最適のアプローチで獲得したのです。

それまではそれぞれの部署がお互い交流することなく、自分の部署で部分最適のカイゼンをやっていたのを、今回は、問題を共有した上で、全体最適のカイゼンを実行することができました。それぞれの方が自分の後工程に対するサービス向上をできないかと考えてみてはいかがでしょうか。より高いレベルのカイゼンテーマが見つかりCさんのように短期間にカイゼン能力を向上させる人が生まれることでしょう。