前回は、競争力の国際比較、つまり国別のランキングでわが国は昨年より1つ順位を下げて29位と過去最低となったことをお伝えしました。このようにどちらかと言うと悪いニュースがあると鬼のクビでもとったように騒ぎたてるマスコミがわが国には多いように感じます。ところが、日本カイゼンプロジェクトの見解は軽薄なマスコミとは全く異なるものでした。その着眼点は単なる順位ではなく、ランキングを構成する評価項目のうち日本が最下位になった3項目についてでした。それらは、国際経験、ビッグデータ活用・分析、ビジネス上の俊敏性でした。そこで、前回は筆者が考える中小企業の目前の課題3つについて紹介しました。国別ランキングの動向などはどうでも良いこととは言いませんが、単なるニュースに過ぎません。それよりも中小企業の目前の課題についてはつねに集中しておくことが欠かせないことを述べました。
今回は、ランキング評価項目のひとつであるビジネスの俊敏性について考えることにします。
【1】顧客先で不具合が発生
こういう連絡があり、自社が納入した製品の不具合情報がFAXやメールで顧客から送られてきたとします。何はともあれ顧客先に駆けつける必要があります。顧客と面会すれば、今後どうするのか納入者としての責任、対応や原因など、場合によっては暫定対策だけでなく恒久対策まで質問されるかもしれません。こう考えると、駆けつける前にさまざまな情報を持参したいところですね。もっとも、これには相応の時間を要しますから駆けつけるタイミングは遅れることになります。何はともあれ顧客先に急行するのか、まずは関連情報をしっかり仕入れてから駆けつけるのか、読者の皆さまならどうされるでしょうか?
ここでのビジネスの俊敏性とは、何はともあれ「直ちに駆けつけること」です。説明資料などは後回しでよいのです。どう対応しても、顧客から厳しく叱責されることは避けられません。こちらの落ち度なのですから率直に受け入れるしかありません。資料などの準備で駆けつけるタイミングが遅くなったら面会すらできないかもしれません。顧客企業の窓口担当者としても一度は厳しく叱責することが必要なのです。つまり、叱責しているうちに「こういうことで時間を浪費している場合ではない」と気付くことになります。顧客企業において窓口担当者は被告席に立つことになるからです。納入者と一致協力して発生した不具合に対応しなければ、担当者として社内での役割を果たすことができません。
【2】計画的に進める
俊敏性という語感からは1分、1秒を争うという雰囲気がありますが、ビジネスの俊敏性についてもっと大きく幅広くとらえることができます。今日思いついて明日できることには限りがあります。時間軸を、日→週→月→年と広げていけば達成できることはそれなりに大きくすることができます。つまり、年度計画などのビジネス計画の重要性はここにあります。コロナ禍に伴うテレワークの進展で大都市にあるオフィスを小さくして固定費を削減する企業が増えました。企業の経営者と同じ発想は企業の勤務者にもあります。勤務者においても住宅を通勤時間の制約を緩くして選択する人が増加しています。これらは計画的というよりも時流に乗るということかもしれませんが、よく考えていることは確かなようです。
企業の経営者であれ勤務者であれ、計画的というキーワードは基本的に欠かせません。まず計画のためにはありたい姿や理想形を描くことが必要になります。・・こういう風に書いていくと「また、そう言うか!」とうんざりされる向きもあるかもしれません。しかし、さほど面倒なことではありません。前回、中小企業の目前の経営課題として三つをとり上げました。
・新製品、新サービスの開発
・人材開発、人材の確保
・規模の拡大
これらの三つの項目を眺めているだけで、どういうことをやるべきかを思いつくことができます。これで「計画的」の第一段階に踏み込むことができました。次は、どういう順序で実施するかになります。実施のためには、社内のヒト、モノ、カネの制約がありますからそれらを考えていく必要があります。もちろん、優先順位は経営者が決めることになります。ここまで来ると「計画的」の第二段階の終了です。あとは計画したものが実現できて期待した結果を生み出すか、ということになります。ビジネスの俊敏性を確保するには計画的であることが欠かせません。
【3】原則を確認する
前項で実施すべき「計画」が決まったとしても、てきぱきと実践していくためには、仕事の進め方の原則が必要になります。例えば、社内には決裁基準があります。モノを買うとき、職位によって限度額が決まっています。管理職、役員や社長などによって決裁できる金額が変わってきます。このような社内で明示されたルールが必要になります。このようなルールが無いと、業務の進行スピード上げることはできません。筆者が自動車会社の本社の一部門に勤務していたときのことです。業務スピードアップのために「不在のとき私の職印は自由に押してよい」という部長が隣の部にいました。また部門トップの役員で「皆さん、自由に仕事をやってください」という方がありました。部長も役員も、そのやり方で業務が活性化しスピードが上がることはありませんでした。業務の活性化やスピードアップのためには、単に決裁基準を緩和すればよいという問題ではなかったということです。そういうことではなく、仕事の進め方の原則がきちんと存在しているか、ということです。ISOなどで業務プロセスの記述を重視するのは、このような原則重視の反映と思われます。若手もベテランも、業務プロセスを共有し相応のスキルのもとで仕事の進め方を共有している職場、ここで言う社内のルールとはそのような職場環境をつくるものであり、ビジネスの俊敏性を確保するために欠かせないものでもあります。次回はこの続きです。