現場カイゼンレポート 第一回

端材の活用

先回まで「モノづくりの現場探求」と題して、「在庫」、「人材育成」、「段取り替え」、「安全」などモノづくりの現場で日常的に話題になる事象について、28回に渡っていろいろな角度から検証してお話しして参りました。今回から新たに「現場カイゼンレポート」と題して、私がこれまで現場カイゼン活動で経験してきたカイゼンの中から、皆様のお役に立てるものをピックアップしてお伝えして参ります。

A社はお客様のご要望に合わせて製品を設計し精密機械加工・組み立てを行う会社です。これまで特に大きな問題がなかったA社でしたが、昨今のサプライチェーンの分断などによる材料の価格高騰や納入遅延が始まり、生産に支障をきたすようになりました。材料調達については、これまで問題がなく、あまり注意を払っていなかったのですが、特注の金属材料の入荷が突然大幅に遅れ、生産できなくなるなど大きな問題が起き、材料調達をカイゼンするプロジェクトチームを作ることとなりました。メンバーには調達部門だけでなく、営業、設計、技術、品質管理、製造の各部門の人が選ばれました。

材料が入らなくなるという緊急事態であり、チームメンバーは前例にとらわれずに議論をしようと決めました。これまで無造作に捨てられていた使用済み材料の端材にカイゼンの可能性があるのではという意見が出て、端材置き場を見ることにしました。A社ではそれまで使い終わった材料はまだ使えそうであっても基本的に端材置き場に捨てており、メンバーの多くが、何となくもったいなさを感じていたことと、管理が不十分で乱雑になっていたので気になっていたのです。

端材の活用について、品質管理部門からのメンバーは慎重な立場を取りました。以前、端材を捨てないで取っておき、それを生産に使ったことがあるのですが、端材に付いていた傷を見逃したり、間違った材料を使用したりで不良が発生し、端材活用を取り止めた経緯があったからです。

メンバーは置き場に無造作に捨てられていた端材を種類別、大きさ別に並べ直してみました。すると、かなり多くの端材が材料として十分に使えるモノであることが分かり、これまではゴミ捨て場だと思われていたところが宝の山になる可能性を感じました。もし端材の活用ができれば調達量を減らすことができ、現在の問題の解決に貢献できるからです。

そこで、以前の失敗の原因を調べました。その結果、当時は端材を管理するための専用の置き場所がなく、使用に際してのルールが不明確であったことなど管理が不十分であったことが分かりました。

端材に傷が付いていることがあったのは作業中に付いたものではなく、端材置き場に捨てられた後に付いたものであることが製造と技術部門の調査で分かりました。そこで、品種ごとに専用の置き場を作ることにし、傷が付かないようなカバーが設置されました。また端材は大きさがまちまちなので、同じ品種ごとにサイズを長・中・短の3通に分けて、使う端材を選びやすく取り易くしました。

端材の選択間違いについては、材料納入時に品種と径などを書いたシールを製品化しない側の端に貼るなどの見える化を品質管理部門と調達部門が協力して推進し、それが常に見えるようにする置き方に変えました。

現場で議論していた時に、営業担当者から、ほとんど同じ性質であるが、お客様の指定で別々の材料が数種類あることに対して、材料の品種統合の設計変更依頼をしてみるとの提案が出されました。以前は相手にされなかった設計変更ですが、今はお客様も材料調達の困難な状況を理解しておられるので受け入れられ、既に数種類の材料が統合され品種が減っています。調達部門はこの決定により管理が楽になり在庫も減るので大喜びです。

それらを実行した結果ですが、散らかっていた端材置き場はあっという間にスッキリし、その月の購入は2割、その後の平均の購入量も1割の減少となり調達上の問題がカイゼンされ、更にコストダウンにもなりました。一時はゴミ扱いであった端材ですが、付加価値を生み出すモノとして生まれ変わりました。SDG´sの流れにも合うのでA社としても更に積極的に進める予定です。

材料費アップがこれからも続くことが予想されますので、端材の活用法に目を向ける事は非常に有効です。このような形でのコストダウンは、意外と見逃されていることが多く、改めてチェックをしてみることをお勧めします。