新・虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第24回 (最終回)

トップとの会話はワインとオペラで素養を確認されます

● 初めて会うと会話に出るのはワインとオペラの話題
 日本では初めてお会いするクライアントとの会話は、以前勤めていた会社のことや鳥取県からの訪問なので移動はどうしたかなどのたわいもないことがほとんどでした。事前に素性を調査することが割と簡単なせいでしょうか、深いところまでの詮索はありませんでした。
 接待になってからは、主に趣味や酒の話題で盛り上がっていました。趣味は、音楽でいえばジャズ、しかも50年代~80年代の古いジャズでした。さらにもう一つが意外ですが落語です。ジャズと落語は一見別物のようですが、アドリブの醍醐味である即興演奏や本題に入る前の小咄のマクラも本質は同じだと考えます。結構これらの話題は、相手側も興味をもってお話をされるので会話も弾みます。
 ところがヨーロッパは、ジャズはほとんど聞く人はいないし、ましてや落語は誰も知りませんので、説明のしようがありません。たまたま30代から体のためといって、日本酒やウイスキーの代わりにワインを飲み始めたのです。
 多くの頒布会がいくつもあり、格安のワインをたくさん勉強する機会に恵まれました。地元にNHKの技術者の監修のもとで立派な音楽小ホールができ、その音楽祭の運営実行委員になりました。農協が建てたことで、話題にもなりました。
 その時の担当もジャズと落語でしたが、クラシックやポピュラー音楽、演劇なども観劇する機会に恵まれました。一流のミュージシャンや芸人とも演奏後の接待にも呼んでもらい、直接お話を聴くこともできました。さらに地元のクラシック音楽祭の事務局も担当することになり、多くの演奏やオペラの上演の手伝いをすることもできました。
 これらが幸いしたようで、ワインとクラシック音楽やオペラについては、ある程度ヨーロッパの人達と会話ができるようになっていたのです。これは偶然の産物でした。ヨーロッパの会社のトップにも色々な人がいますが、ワインとオペラの嫌いな人はいないと言っても良いくらいです。

● うんちくを見せるのは、3つだけ知っていればよいです
 ワインの話題が出ると、まず白か赤のどちらが好きかと訊ねてきます。良いワインは白赤ともにあり、接待する人も好みもありどっちともいわずに、まずは前菜用に白の辛口でお勧めのものは何でしょうかと訊ねるようにしています。
 接待する方の自慢話も聞いてあげることは、重要な接待になります。メインになると魚料理よりも肉料理がほとんどなので、それには場面を変えて赤のフルボディで良いワインの推薦はありますか、とまた訊ねます。
 接待は彼らもいつも通っているレストランなので、ワインは事前にわかっているので、ちょっと自分のセンスも評価して欲しいのが見え見えです。そこはこちらもよいしょ!して持ち上げます。
 その時に出てくるのが、ワインのブドウの品種の話です。世界一高い山は、エベレストですが、2番目や3番目は知らない人がほとんどです。3つを知っていればできるなと思わせることができます。ちなみにK2とカンチュンジェンガです。ブドウも自分の好きな銘柄を、1つではなく3つだけでも覚えておくと良いことがわかってきました。
 白ならば、ピノ・グリージオ、シャルドネ、リースリングであり、少し自分の好みも伝えるとなお良いこともわかってきました。赤は、カベルネ・ソービニオン、ピノ・ノワール、メルロー。赤はどの産地が好きかとも必ず聞くフレーズですので、スペインのリヨハ、イタリアのトスカーナ、フランスのアルザスと、少し有名どころをワザと外して答えます。
 これがミソで、良くヨーロッパに関心を持っているなあと思わせます。ただし緊張しているので、酔っぱらうことはありません。家ではよく酩酊しますが、不思議です。
 次の話題がオペラです。鳥取でモーツアルトの魔笛やフィガロの結婚、コジ・ファン・トゥッテを何度か自主上演したこともあり、表面的な内容を知っていたのが幸いしました。
 ヨーロッパの地方都市には、オペラハウスが当たり前のようにあり、楽団も地方自治で雇っています。世界第二次大戦後に、ドイツがまず行ったのはオペラハウスの再建でした。目の付け所が違います。デュッセルドルフ市内にもオペラハウスがあり、よく当日券で鑑賞していました。日本は前売りが安いですが、こちらは当日が安くなることがあります。
 その中でも面白いのは何かという質問もあり、一番面白いのがロッシーニの「ランスへの旅」と答えます。デュースブルクで観た時は、バスタブに実際に浸かってびしょ濡れになって歌っていました。日本のスーパー歌舞伎の市川猿之助が、空を飛んだりする舞台を毎年観ていたので、その話題もくっつけて話題をつなぎます。
 さらにオッヘンバッハの「ホフマン物語」も酔っ払いの演技が、とても上手く感心したと話は弾んでいきます。ワインと音楽には、国境がありません。

● 口コミで営業はとても楽になります
 当初は自ら営業をしていましたが、段々トップ同士の口コミによる営業になってきました。トップ同士での商工会議所や異業種の会合などで、日本人のコンサルタントが来ているがどうなんだという会話から始まり、日本人だけどラテン系の人種のように楽しい奴だと伝わっていきます。
 さらに、答えは絶対言わないちょっといやらしいぞ、改善しても社員を辞めさせないことを約束されられるぞ、レッドカードとイエローカードを持っているぞ、リヨハワインが大好きだ、オペラも行くぞ、料理はイタリアンでチーズも大好きだなど、事前の情報が流れます。興味があれば、一緒にワークショップに参加して本人にあってみませんかと、話がつながります。次のクライアントに会う時には、これらの情報で事前準備ができているので、交渉がとても楽になりました。
 これで、新・虫の眼・魚の眼・鳥の眼は、終了します。しばらく充電をしてから、また紙面でお会いできるのを楽しみにしております。