モノづくりの現場探求 第二十一回

安全対策1 意識フェイズとハインリッヒの法則

前回、少子化により段取り替えのような高度な仕事の伝承が困難になって来ていることをお話ししました。今回は同じく少子化から顕在化している安全についての問題点を3回に渡って取り上げます。

人の入れ替わりが激しくなり、仕事経験が少ない人が増える中、事故を起こさないために改めて安全対策が行き届いているかに目を向けることが求められています。

私はカイゼンをする前提として安全が一番であるということを片時も忘れることはありません。カイゼンと安全のどちらか一方というのではダメです。狙うのは両方です!当たり前ですよね。しかし実際の所、現場では、安全第一とはいえない時もあると感じています。

安全対策をどこまで実行するかを判断することはとても難しいことだと思います。なぜかというと、安全対策が不十分でとても危険な状況であったとしても、そこにいる人が万全の注意を払って仕事をすれば事故が起きないことはあり得ます。一方安全対策が十分に取られた職場でも、不注意な行動をすると事故が起きます。こういう状況があるので、危ない状況があっても安全だと思い込んだり、対策を打っても意味がない、あるいは事故は人の不注意が原因だといった短絡的な答えに結びつく可能性があるからです。しかしここで曖昧な判断をしてしまい、事故が起きてしまっては困ります。私たちは明確な判断基準を持つ必要があります。

そこで、今回は安全の基本となる二つの情報を取り上げてお話をしたいと思います。「意識フェイズ」と「ハインリッヒの法則」です。

人間には意識フェイズというものがあり、人間はその時々にⅠからⅣのどれかのフェイズに属して活動しています。フェイズⅢの「積極活動状態」であれば誤操作率は10,000分の1と極めて信頼性が高い状況でいられますが、これはかなりの緊張状態であり継続は前提にできません。普通の状態はフェイズⅡで、これが「定常作業状態」ですが、この状態での誤操作率は100分の1~1,000分の1と決して低くありません。即ち人間は間違いを犯すものという前提は正しいのです。そして注目するべきことはフェイズⅠの「単調・いねむり状態」とⅣの「慌て・パニック状態」の誤操作率で、何と10分の1以上です。落ち着いた状態であれば絶対に犯さないような間違いをフェイズⅠの疲労・単調・居眠り状態、あるいはフェイズⅣの慌て・パニック状態になれば犯してしまう可能性が誰にもあるということです。私自身も寝不足や慌ててパニック状態になってしでかした失敗談はかなりあります(つい最近も、夜遅くまでかかってようやく書き上げた長文を寝ぼけて消してしまいました)。


つい先日、生産遅れからお客様への納入が遅れていたA社の営業マンが、ようやくできた商品を両手で抱えて足早に階段を降りていくところを見かけましたが、あの状態でもし転んだら大変なことになるとハラハラしました。私には彼が少々パニック状態になっていたように見えました。普段は落ち着いた人でも、パニックになると我を失い危険を冒してしまうことがあり得ます。

ハインリッヒの法則は身近なヒヤリハットへの着目の大切さです。一件の重大災害の背景には29件の中規模災害があり、そして300件の軽微災害があると言っています。軽微災害をきちんと把握しないで個人の対応に任せてしまうと、29件の中規模災害が起き、そして一件の重大災害が起きるということです。逆に軽微災害をきちんと把握して対策していれば、それ以上の中規模災害やましてや重大災害は起きないということです。私たちは日常の中にある災害の小さな可能性に注目して普段から対策を打つことが必要です。安全は絶対重要なテーマですから、どんな些細なことであっても対応に手抜きがあってはいけません。


日本カイゼンプロジェクト会員の2×4住宅のパネル製作をしている株式会社シガウッドでは、毎週全員の参加でヒヤリハットの報告と対策を現場で共有しています。その結果、大きな木材を切断して釘で組み立てるという事故が起きやすい工程がありますが、連続無災害記録がもうすぐ2500日という業界トップクラスの結果を出しておられます。

変化が大きい昨今のモノづくりですが、カイゼンは常に安全とセットです。材料費の高騰などでコストダウンが更に必要になりますが、安全リスクが高まるコストダウンはカイゼンではありません。将来にわたって安全を守るためには、まず今の状態の正確な把握から始めるのが良いと思います。早速安全パトロールで確認をお願いいたします。次回は再発防止についてお話しいたします。