新・虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第16回

良いコンサルティングは通訳のレベルに左右される

● 通訳が介在すると話がとぎれとぎれになります
 日本でも最近セミナーをする機会が増えました。ヨーロッパでは、普通30秒程度の文章をひとまとめとして、通訳に現地の言葉に翻訳してもらいながらセミナーをしています。コンサルティングの場合は、テキストを読み上げることはないので、それぞれの現場で会話方式になり短い話し合いで対応できます。
 でもセミナーの場合は、1枚のテキストでも30分とか1時間もかけて話をすることもあります。私の場合は、短くても数分はかかります。1枚のテキストからそれぞれの場面を想像したり、エピソードがだんだん湧いてきたりして、臨場感溢れる解説を得意としています。また同じフレーズでも例え話をアレンジしたりして、ついつい長く話をして暴走してしまいます。
 そうするといつも通訳が「長すぎるので、通訳できませんからやめください」とサインを出して話のブレーキをかけます。ポーランドの通訳だけは、「20分でも30分でも話をして下さい、すべて翻訳します。」といわれましたが、1分程度にしました。聞き手の立場に立ったリズムづくりが大切です。
 また同じことをコピーマシンのように繰り返し話をするのではなく、私は同じことを同じように話をしないというこだわりをもっています。これは落語の桂枝雀師匠から教えてもらったことですが、同じ場面で笑わせるのはプロではない、だから工夫をしながら高座に上がっていることを伺い共感しました。また観客の最後に入ってきた人を見てその時に枕詞を瞬間的に考えるというのです。落語も勉強になります。
 ヨーロッパに通い始めたころは、何人も通訳が入れ替わり、通訳でも得意としている分野でない人は1つの用語の説明をしてからセミナーになり、何度も何を言おうとしたのかわからない場面が多々ありました。移動中に用語の説明したり、具体的に何度も丁寧に解説しておく、などの苦労がありました。
 日本では通訳が必要ないので、セミナーは連続6時間でもノンストップで話をすることができます。ただし鳥取県中部の倉吉弁が頻繁に出ますので、時々皆さん理解できるかと確認するようにしています。
 また参加者の頭をクールダウンするために、1時間ごとに5分間の小さなグループでのお互いの気づいたことや感想などを話してもらう時間を作ります。人は聞くだけでは記憶に残らないそうで、時々話をすることで自分の考えや想いを人に伝えることで記憶に残ることを採用していますが、日本でも大好評です。

● 通訳にもよくわかる工夫を積み重ねて対応していきます
 ヨーロッパで仕事を始めた時は、ドイツのコンサルタント会社の紹介で色々な通訳をつけてもらいました。当初は前述のような状態であり失敗続きでした。自分が悪いのか、通訳が悪いのか悩みました。他責にすれば一向に問題解決はしませんので、話だけでなくフリップチャートを活用して、図形やイラストを多用してリアルタイムに解説をすると、かなり言いたいことが通訳だけでなく、聞いている皆さんもよく理解できることもかわってきました。そのために毎回描いたフリップチャートをすべて写真に撮り、レポートにして毎回勉強しています。最初は黒と赤のマジックでしたが、訪問先になかったりしましたので、さらに青を加え最終的には緑も加えて4色のマジックを常に持参するようにしました。
 さらに小袋には、色々な小道具も用意しました。以前紹介したレッドカート、イエローカード、笛(本物のサッカー用と百均のもの)、醬油差し(ランチャーム)、折り畳み式のコップ、コーヒー豆(コーヒー1人前は、豆55粒です)、金のアグー(豚)、著者が設計したリミットスイッチ(ながらスイッチ)など話題を現物と一緒にたとえ話をしていきます。
 また画板の裏にも多数多用なステッカーを貼ってサンプルの紹介に使っています。あとは指や手も翻訳ツールの手助けになります。身近にあるものを多用しながら、難しいことは優しく、優しいことはもっとわかりやすく、わかりやすいことはもっと深く、楽しく解説をして、現場の実践に少しでも役立つことをいつも考えています。

● 良い仕事は通訳との協働作業の賜物です
 通訳はコンサルタントの分身でもあります。話をする内容だけでなく、コンサルタントの人格までも頭に入れて、一つひとつ翻訳してくれるようです。ただしこれはレベルの高い通訳の話です。直訳しているのかと訊ねると、必ず意訳して伝えるというのです。
 例えば、日本の諺で「犬も歩けば棒に当たる」という諺がない時は、それに合った現地の諺に切り替えて話をするというのです。ですから現地の諺だけでなく、日本の諺も熟知してそれも最も適した翻訳をしているのですから、彼らを尊敬してしまいます。
 逆に似たような諺もあります。ドイツでは、「コックさんがたくさんいると料理が不味い」は、日本の「船頭さんが多いと船は進まない」ととても近い諺です。日本的な考え方だけでは、相手の国の習慣や風習には合致しないこともあり、その辺を瞬時に察知して適切な言葉を選んでくれます。
 ドイツでは十数人の通訳にしてもらいましたが、最終的には2人になりいずれも十数年の付き合いになり以心伝心のようになります。うち一人はドイツで一緒に会社を立ち上げましたが、一時期奥さんといるよりも私と過ごす時間の方が多くなり、奥さんから苦情があったほどです。
 でもよい仕事には、この良い関係は不可欠です。もう一人の通訳は、ミュージカルやオペラもできるので、二人が講演すると身振り手振りだけでなく声の高低も合わせてくくれるので、一心同体になりとても楽しい講義になります。