新・虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第15回

スイス人の几帳面さはヨーロッパピカ一

● ゆっくりですが、一番堅実に改善し後戻しがありません
 ヨーロッパでコンサルしている中で、最も確実にしかも後戻しのないのがスイスです。これは国民性だと思いますが、小さな国ですが国力だけでなく国民性も実に堅実です。伝統をしっかり維持しながらも、新しいものも確実に見極めながら取り込み自分のものにしていると考えます。
 スイスの人口の800万人は、ドイツの10分の1です。徴兵制度があり、男性は全員原則として参加します。兵役後は、拳銃を持つことができます。スイス人と喧嘩をすると拳銃で撃たれるので用心しなさいと、ドイツ人はよく言いますが、でも気性の荒い人にはお目にかかったことがありません。また谷が違うと話をする方言も違うというほど、山あり谷ありの国です。
 国境を越えてスイスに入ると、風景が一変するくらいわかります。ゴミやがらくたが落ちていません。派手な看板も目につきません。世界大戦の戦火を受けなかったから、古くからの建築物だけでなく、人も技術も脈々と受け継がれていることが国力の強さの根底にありそうです。
 訪問している工場は、世界でも有名な企業の子会社で数百ある小さな工場の1つです。当時はいつ潰れるかわからない工場でしたが、製造部長が親会社のワークショップに参加して、すぐにコンサルティングの依頼をしてこられました。
 当初は仕掛在庫の山でしかも欠品だらけの工場でしたが、まず5S活動から目で見る管理、ムダ取り、1個流しのU字ライン、カンバンによる後工程引き取りの導入を次々に導入をしていきました。
 そして最後の仕上げには、水すまし要員とマーシャリングカーによる構内物流を導入したことです。仕掛は1/30以下になり、納期遵守率と品質向上はその企業グループで一番になりモデル工場になったのです。
 他の工場と違っていたのは、社長、製造部長、製造課長と社員の連携プレーです。指導や指示したことは確実に咀嚼しながら社員に上手く伝えながらも、反発する意見にもきちんと耳を傾けて丁寧に説明をしてくれたことです。
 訪問するたびに次回訪問までに宿題や課題を出しますが、確実に実施をしてくれます。しかも後戻しが当たり前ですが、後戻しは滅多になくいつも前進しているので、こちらがビックリ状態です。マネージャーは組織の中間管理職ではなく、いつも中心管理職だといっていますが、まさにそれを彼らは実践しています。

● 言ったことは守る、約束事は守る、しかし融通は利かない
 感心するのは、言ったことは守り、約束事も必ずやってくれます。でもできないものは無理だときちんと説明してくれますので、逆にきちんと説明をすればやりやすい国民です。なぜスイスが世界から信用のある国と認められているのかといえば、大戦の前から中立国であったことが考えられます。
 信用ある仕事の1つである銀行業務があります。秘密を絶対に漏らさないことで、多くの資産家がスイスの銀行に隠し口座を持っています。銀行だけでなく、薬品、化学製品、食品、機械式時計、精密機械加工製品、小さくても付加価値のある製品をつくり続けていますが、国民性と狭く小さな国土からの相乗効果が考えられます。
 工場の生産技術のAさんは、ミクロン台の公差で治工具をつくります。趣味でエレキギターボディ、ネック、ヘッドなど一からを作ります。製造部長は、70年以上前のフォレスト社のバイクを2台持っていますが、1台はまったく錆がありません。これが自慢もう1台は最近入手したバイクで、ナチスが使っていたものをノルウェーで発見されたものを、自ら買い付けにいったそうです。スイスでこのバイクを2台もっているのは、彼だけだそうです。さらに日本製のバイクも持っています。バイクの趣味な人は、ほとんどが日本製を持っているのはやはり性能がいいと言う理由でした。
 趣味にお金を使わないことも有名です。工場の社員に聞くと、コーヒーに入れる小さなミルクカップのフタには色々な図柄があり、それを集めるコレクターもいます。またビールのコースター、ビンの王冠など思いつかないものを収集しています。

● 物価はヨーロッパで最も高いが、給料も高い
 ドイツの物価のほぼ2倍、タクシー代に至っては約20分走れば15000円もかかります。その後はレンタカーを使うようにしましたが、制限速度に対して時速3kmオーバーでも罰金を取られます。ヨーロッパのネズミ捕りは、カメラ付きのレーダーです。速度オーバーした時に赤いランプが光り、写真と速度を同時に撮影されて、後日自宅に罰金の請求書が送付されてきます。レンタカーでも容赦なしです。何度も通訳と記念撮影をしました。
 横断歩道は絶対に歩行者優先で、スマホを見ながらでも車はきちんと止まってくれます。日本のマナーの悪さとは大違いです。この工場は、バーゼルの近郊にあります。空港もスイス、ドイツ、フランスに隣接していますので、空港内でも間違って出国してしまうと面倒なことになります。逆にEUとなってパスポートの提出が不要になり、相互の行き来がとても楽なっています。
 そこである人たちは、スイスの工場で働きドイツに住んで、フランスのスーパーに買い物に行けば、良い給料で安く住んで、安く海産物もワインも野菜も美味しいものが手に入る優雅な生活をしています。工場では、ドイツ語で話をしますが、背を向ければスイス語(方言)やフランス語、アルザス語が飛び交います。
 この工場では、イタリア人、インド人、トルコ人も働いていますが、雰囲気はかなり良い感じです。陸続きのメリットを感じます。このように社員も多様化しているのが当たり前で、外国からの人たちを当然のように受け入れています。日本もこの多様性は、見習うべきことを思います。