新・虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第9回

ヨーロッパは陸続き、日本は周囲が海

● ヨーロッパは陸続きなので輸出が楽で税関もなし
 ヨーロッパはEUとなってから約20年になりますが、当初は国境には税関や検問があり、いちいちパスポートを提示してハンコをもらっての往来でした。特に問題だったのは、旧共産圏の出入りでした。
 チェコやスロバキアさらにハンガリーなどを陸路においては、荷物を積んだトレーラーが何台も並んでいることがあります。検問に時間が掛かり思うように入国できず、ホテルに入ることが遅くなったこともしばしばでした。
 近年は空も陸もパスポートの提示もなしで行き来でるので、人も荷物もスムースに流れています。アパートのあるドイツのデュッセルドルフは、オランダまで1時間半です。週末になるとオランダから、わざわざパンを買いに来るお客さんもいます。逆に牡蠣や魚界を食べにオランダに行く人もいます。
 速度無制限のアウトバーンがあるので、1時間100kmの移動が目安になりほとんど渋滞なしで往来できます。しかも信号待ちや料金支払いはありません。いわゆる製造ラインのチョコ停がないスムーズな良い流れです。
 そのインフラがありヨーロッパは陸続きであることから、工業製品だけなく生鮮食品や人の移動も容易にできます。日本の物流手段は主にトラックで荷物は数トンですが、ヨーロッパは長さ14mのトレーラーです(最大38トン)。
 1回の物量が格段に違うのです。このために製品の値段は、日本に比べて格安です。しかも年中色々なものが入手できます。最近は、18mのサイズのトレーラーの導入が目の前に迫っています。
 共通のパレット単位に、製品を載せてヨーロッパ圏内を移動しています。日本のサイズとは異なります。ナンバープレートも統一されており、左端にある場所にA、D、F、I、CH、Hなど国の頭文字からどの国のトレーラーかが一目でわかります。ちなみにイギリスは表示がありませんが、黄色地なのですぐわかります。スペインは、「S」ではなく「E」です。
 ドイツはアウトバーンが特に整備されているので、旧共産圏のトレーラーが無料で往来できることにいら立っており、通行料を取ろうとする動きがあります。彼らは一日で1000kmも平気で走ります。しかも道路の右側をきちんと時速100kmで走ります。この規律はよく遵守しています。
 ドイツに比べてスペインやトルコの労働賃金は、かなり安いので半完成品を輸送して現地で生産することも盛んになってきています。その現地組立作業が、すぐにできるしくみを導入する支援し成果を上げています。

● 日本は周囲が海なので99%以上は海上輸送
 嬉しいかな?悲しいかな?日本の周囲はすべて海に囲まれています。良い点は日本独自の文化が形成されたことでしょう。しかし資源の少ない日本は、外国から原料を買って高い付加価値に転換して輸出することを得意としてきました。
 そのことが仇になり、高機能の携帯電話や電子レンジなどが、余分な機能が付き過ぎて使えない機器となって、逆に世界の消費者に受け入れられないモノを作ってしまいました。いわば井の中の蛙現象です。他の国々と直接つながっていないことが相手をきちんと知らないので、売れないモノを作ってしまったのです。
 従って製品輸出は、99%以上が海上になります。大量のモノを運べますが、現地に売り出すには1週間以上のリードタイムが必要になります。その分消費者の反応も遅くなります。
 搬送作業である出庫、荷揃え、積み込み、搬送、荷卸し、格納という一連の付加価値を生まない作業が大きなロスになります。韓国と対馬さらには九州までを、トンネルでつないでしまおうというアイデアが出ていますが、時間短縮は競争になります。
 多くのマネージャーやトップは、物流には余り気にかけていないように思えます。これらの作業には一切付加価値がないのですが、やめるわけにもいきません。堂々と正面から改善のメスを入れて欲しいと考えます。
 多品種少量生産方式では、ますますこの物流がネックになって原価を上げる要因になります。逆に余り陽の目にあたっていない構内物流に、スポットを当てて取り組むことで、短いリードタイムや仕掛や在庫削減といったテーマが大切だと考えます。儲けるには、高精密、高精度などといった他国が真似のできない製品を生み出すことが必要になります。
 最近のインバウンドでは、薬、化粧品などといった小さくても付加価値のある製品が売れるのもうなずけます。さらに日本独自の文化や特質を持たせる(曰く因縁がある、物語ができる商品、ここだけしか売っていない、メンバーだけの特権など)のアイデアが求められます。まだまだ頭を使う部分が残っています。

● ソフトはインターネット上でどこでも瞬時に転送できます
 モノにこだわると輸出の点で日本は不利ですが、インターネットで転送するモノを開発すれば一気に競争力ができます。音楽、映像、情報などといったソフトの情報は、世界中に瞬時に転送できます。
 日本はこの分野での取り組みは本当に少ないですので、挑戦のやり甲斐があります。言葉の壁は、通訳や翻訳ツールなども活用するようにすれば何とかなります。何とかなるという精神を持てば、本当に何とかなるものです。要は意志の強さと考え抜くことかと思います。
 日本で考えたデータや情報を転送して、現地にて3D製法で作ってしまうこともできます。また日本で製造ラインのシミュレーションをバーチャルで行い事前にしっかり改善してしまい、現地に指示するだけという仕事もできます。ドラえもんの「どこでもドア」は、瞬時にモノが移動できますが素敵な夢です。ワクワクしてきますが、まだまだ私たちのポケットには想像できないほどのアイデアがあるはずです。