○○なカイゼン 第十話

第十話 百聞は一見にしかず。一見は二見にしかず。

「百聞は一見にしかず」とはよく聞かれる言葉ですが、本当にその通りだと思います。モノづくりでは人や機械を通じて材料に付加価値が付き製品へと変化していきますが、すべての工程で付加価値が付く様子が目に見えているわけではありません。もし材料の性質や温度や湿度といった細部まで追求すると、見えていない部分の方が多いかもしれません。しかしそこに一歩踏み込み、見える化するといろいろなカイゼンが生まれるのです。

今回は精密センサーを作っているA社で実行したカイゼンです。作業者が双眼の顕微鏡を使って小さなセンサー基盤にリード線を溶接する仕事でした。それまで順調に生産ができてきたのですが、ある時注文が急に増え生産が間に合わなくなり、新たに作業者を育成することになりました。ところが作業者育成がうまく行かず、実際に作業してもらうと不良がとても多く発生し、注文に応じることができない状態になりました。

どのように作業訓練をしているのかを見てみると、まずベテラン作業者が口頭で注意事項を話しながら、自分で顕微鏡を覗いて作業をしてみせていました。次に新人作業者が今言われたことを頭に置いて顕微鏡を覗きながら作業をして、その作業が終わったところでベテラン作業者が顕微鏡を覗いて出来栄えを見るといったやり方でした。顕微鏡作業なので、2人が同時に作業の様子を見ることができないため、指導がきちんとできないのは仕方がないことでした。

これでは作業を正確に教えられないということで、事務局のBさんがCCDカメラを双眼の顕微鏡の片方に取り付けて、画像をモニターに映るようにしてくれました。作業者には片方の眼で見て作業をしてもらい、リード線が基盤に溶接される様子を別の人がアップで見られるようになりました。そこで新人がしている作業をベテランが直接に指導できるようになり、新人作業者はあっという間に仕事ができるようになりました。

しかしBさんは更にその次の改善を実行しました。実際には1センチ角くらいの小さな四角形の基盤を、拡大して20センチ角くらいの大きさの模型を作ったのです。模型といっても四角い発泡スチロール板の表面に切り抜いたボール紙で立体的な線の配置を作ったようなシンプルなモノです。そして毛糸をリード線に見立てて、これまたボール紙製の大型はんだゴテを使って実際にどの方向からどうやって半田ごてを当てて、どういうタイミングでどの方向にコテを移動させるかといったことを説明してくれました。大きくてシンプルな模型を使った説明はとても分かり易いものでした。

すると驚いたことにその説明を聞いたベテランの作業者が、これまでこの仕事を何とかこなしてきたが、そのようなはんだ付けの原理原則は聞いたことがなく、全く知らずにやっていました。今回改めてはんだ付けの詳しい説明を聞いて、これまで疑問に思っていたことを理解できたように思います。いろいろな発見があったので、更に改善ができるとおっしゃいました。

結果は新人作業者が短期間にベテラン作業者と同等のレベルになり、ベテラン作業者がさらに仕事が上手くなるということが起きました。その後注文は増え続けたため、このカイゼンは大きな効果に結びつきました。

何が見えていないのか、何を知らないのか、ということを知るのは難しいことです。今回の事例は決して珍しいことではないと思います。見えないものを見えるようにすることで更なるレベルへのチャレンジをいたしましょう。

これまで10回に渡り連載して参りました「柿内幸夫の〇〇なカイゼン」は今回で一回終了いたします。次回からは少し違った観点からの文章をお届けします。