● 日本の労働生は先進国で、最も低いことを認識する必要があります
日本の労働生産性は、意外にも低く世界で20位以下です。1位はアイスランド(人口50万人)、2位のルクセンブルク(人口60万人)の名目付加価値の半分しかありませんが、人口で考えると統計に取る方が可笑しいと考えます。しかし、3位の米国の6割しかなく、ドイツは12位ですから断然低いといわざるを得ません。
日本が他の先進国よりも低いのは、意外だったと思います。製造業の自動車を含む輸送機器や工作機械といった分野では、高い労働生産性を有しています。でも昨今の電気産業界、サービス業、ソフト関係、農業関係などの分野を見てみると、生産性の低いのが想像できます。
例えば、ドイツではデパートで丁寧な包装をしたり、スーパーで買ったものをレジ袋に入れたりすることはありません。レストランでも心のこもったおもてなしはまったくありません。しかも目線をワザと合わせないようにもしています。農業での規模は何十倍もあり、相当の機械化が進んでいます。
労働生産性の大きな違いは、マネジメントの違いと自覚の差、さらに日本の終身雇用制の弊害などが多くの要因が考えられます。ズバッといえば、マネジメントにおける即断即決が日本ではできていないことと、そのスピードの遅さが問題だと考えます。ドイツ人も確かに会議を催して責任を分散することはありますが、基本的に上に立つ人の即断即決の態度は、共通して早くしかも良いものです。
● 各国より低いのは、マネージャーの力量の差もあります
欧米のトップマネージャーたちは、機会があると次々に転職して自分のレベルアップを虎視眈々と狙っています。実際にヘッドハンティングのために推薦状を書いたこともあります。友人のGさんはベルリンの小さな会社の取締役でしたが、世界一の成型機メーカーの社長になっています。そして、ステータスと給料の双方を手にしています。
マネージャークラスの人も同様に、転職しようとしている人が多くいます。日本では企業を転々としている人の評価が小さいですが、欧米は逆です。転職するたびに給料と地位が上がるのが普通です。このように上昇志向の人たちは、積極的に業績を積み重ねています。でもドイツは転職する時に、残念ですが悪い人であっても露骨に履歴書に書かないようになっています。
一人ひとりが、コスト意識をしているかいないかの差もあると考えます。単位当たりの費用や賃金などパっと答えることができます。このようにドイツでは、自分の単価や設備の時間当たりの単価などほとんどの人が知っており、それらを意識しています。またドイツ人は自分の役割を自覚しており、言われたことは確実にこなしています。
上司とのコミュニケーションで驚くことがあります。それは彼らの習慣で、ファーストネームでお互いを呼び合うことです。役職や名字では呼ばないところに、気軽に上司と話をしており、指示命令はトップに面と向かって反論することはありません。でも会話は対等であり、統制がよく取れていると感じます。
また職場で悩んで自殺した話は、今まで聞いたことがありません。彼らの宗教は、自分にミスがあっても責任を取る考えはなく相手が悪いと考えてしまうようで、悩み込むことはないようです。しかし、仏教徒?の私たち日本人は、相手が悪くとも自分のせいにしてしまい、悩みを抱え込みがちです。そういう意味でも、職場の人間関係での悩みは日本より少ない気がします。
でも残念なことにドイツ人の生涯賃金は、全業種平均で100万ユーロです。その上のマネージャーや専門職の人たちは、その2から3倍もあります。つまり初任給がそのまま一生の月給という意味であり、逆に転職や勉強をして上司の資格を取ることで、地位も給料も上げることができるのです。
普通は見習工として、中卒で工場に勤め始めます。意欲があれば勉強して、マイスター、マネージャー、夜間大学に入り、大学院で修士を取り、さらに博士号を取り、社長になっている知人もいます。2000人の某工場で、2人の製造部長がいますが、その2人はいずれも見習工から昇格した人たちで40代です。上昇志向の人には、窓が開いているのがドイツの制度です。
● 正しい生産方式の導入をもっと積極的に行うべきです
ドイツにおいて、トヨタ生産方式の導入が本格的になったのは、2000年になってからです。それまでは従来型の生産システムでしたが、トヨタ生産方式を「リーン」と称して盛んに導入を図っています。中には日本のコンサルタントから学んで、自らの会社でコンサルタント会社をつくり、ドイツをはじめ近隣の国や企業に展開をしています。
ヨーロッパの企業を見ていますと、「リーン」生産方式の「JIT」のみを導入していますが、肝心な「自働化」のコンセプトがないと考えます。何が欠けているかといえば、最も大切な「人間性尊重」です。このコンセプトが備われば、さらにドイツの生産性は上がっていくと考えます。逆に日本では、それが直に学べる環境があります。正しい生産方式を積極的に導入し、マネジメント力を鍛えて展開をしていけば、もっと日本の労働生産性は上がると考えます。