○○なカイゼン 第九話

第九話 経理の一声

私はカイゼンの話をするときに、しばしば「ワイワイガヤガヤ」という言葉を使います。いろいろな部署や立場の人が集まって、それぞれの人が自分の役割にそって話をすると、そこから新しく役に立つアイデアが生まれることがしばしばあり、とても大切だと思っているからです。今回はその例となるお話しをいたします。

自動車関連機器を作っているA社で社長や製造部門はもちろんのこと技術、営業、設計、管理など多くの部門の役員、管理職に入ってもらって整理活動を実行しました。その時に経理部長のK氏も入って下さいました。経理部門の部長となると、現場活動と直接には関係がないので参加しないと言う方が多いのですが、K氏は参加して下さいました。それだけでなく、その後もカイゼン実行のメンバーとして活動に参加を続けました。その結果、彼はこの会社のモノづくりが以前はどういう状態であり、それがカイゼンでどう変わったかをきちんと理解しました。

A社のカイゼン成果として一番大きかった変化は、生産ロットサイズの縮小です。それまでは大きなロットで作っていました。しかし製品のサイズが大きいためロット生産をすると置き場所に困り、運搬が増えそして在庫が増えました。しかし段取り替えのカイゼンや流れレイアウトの採用、そして品質向上対策等の結果、種類の違う製品を一台ずつ作って、できたものをすぐ出荷できるような体制に変えることができました。そうなるとまとめて作っていたのに必要な場所が空き、運搬や管理が減るので生産性も上がってきました。また購入品も減り資金繰りが少しずつ楽になり始めました。

それを見ていたK部長は1つのアイデアを思いつきました。それは、今お客様はロットで注文を下さっているが、決してロットで売っているわけではないだろう。だから本当に欲しい順番でこちらが作って納入すれば、お客様は在庫が減らせるし運搬や管理も大幅に減るだろうということです。そこでK部長は社長に相談しました。こちらからお客様の必要な順番に従って一個ずつ生産をして納入することを提案しましょう。そしてお客様に大きなメリットを差し上げてから、その後社長から先方に提案していただきたいことがあります。それは当社が先方から手形で支払いを受けていますが、この手形のサイトをもし半分にしてもらえれば、今当社が抱えている大きな問題である資金繰り問題が解決します。私の計算ではこの在庫と管理の削減の効果は先方にとって手形のサイトの短縮よりもずっと大きいのです。

社長はその話を聞いて経理部長の言うとおりに交渉し、先方もA社の前向きなメリットのある提案に乗ってくれました。これまでの手形のサイトが半分になった結果、それまで大きな問題であった資金繰りが一気に解決しました。

経理の仕事と現場カイゼンは関係がない…と思わないで参加して下さったことから起きた経営カイゼンでした。普段の仕事は専門家中心で進むのですが、時には多様性のある部門の垣根を超えた議論がびっくりするような結果を生むのです。