○○なカイゼン 第八話

第八話 網の上にも三年

先回はライバル企業の商品カタログを見て、新商品を開発したお話しをいたしました。今回はそれとはまた違う切り口で、現場で新商品が開発された事例をご紹介いたします。新商品開発は専門家の仕事と思われているかもしれませんが、実は現場カイゼンからもたくさん生まれているのです。

K社は非常にキメの細かい精密な金網を作っている会社です。その用途は例えば食品会社で使われるコンベアです。野菜などの材料をそのコンベアの上に乗せて運び、上から洗浄液をシャワーのようにかけて洗うきめの細かい精密な網を作っていました。

そういう精密なコンベアは、以前は海外のメーカーの独壇場であったのですが、それらの外国製コンベアは非常に故障が多く使い勝手も悪かったそうです。しかしK社が改良を加えた同機能のコンベアを作り始めた結果、故障が少なく値段も手頃という商品となり、一気にシェアを取ったという過去の歴史があります。

ある時、私のK社での指導会にK社のコンベアを使っている会社の人が工場見学に訪れました。私も工場長とご一緒に現場を見て歩いていました。するとその方が生産現場でよく聞こえる大きな声で、「お宅のコンベアは本当に良いです。外国製のコンベアはしばしば故障していましたが、皆さんのコンベアは全く止まらないのでとてもありがたいです。ただ一点だけ課題があるように思います。それはちょっと重い感じがするのですが、もう少し軽ければ、動きもスムーズになり,更に電力を節約できると思うんですがいかがでしょうか。」という話でした。

その時、横で仕事をしながら話を聞いていた作業者が、お客様のご要望をいとも簡単に実現してしまいました。お客様が求めるコンベアの姿をイメージして、材料は真ん中に乗るのだから、コンベアの中央は非常に密だけれども両端の部分は粗くすれば軽くなると考えて、その形状の部品をその場で作ったのです。そしてそれを工場長のところに持っていって、「こんな部品で作るコンベアはいかがでしょうか?」と言いました。

材料が乗る中央部分だけコンベアになっている、まさに一休さんの「このはしわたるな」の原理です。網の製造にひたすら向き合った製造者のトンチの利いたアイディア商品の誕生の瞬間でした。

お客様はそれをひと目見て、商品のイメージが湧きました。その場で「そうです私たちが欲しいのはこういうコンベアです。」とおっしゃいました。

その話はすぐにプロジェクトとして立ち上がり商品化され、まずはその会社に商品として納められたのはもちろんですが、その後、軽量で動きがよく、かつ節電もできる機能を持ったコンベアとしてヒット商品になりました。

「網の上にも3年」、じっくり勉強してきた人たちの成果です。これからはさらにお客様のご要望をモノづくりの現場が聞いて、それを作り上げるといったことが求められるでしょう。