○○なカイゼン 第三話

第三話 壁に耳あり現場に柿内あり

先回は「人のふり見て我社を直せ」というテーマでお話ししました。現場で見たパソコンの画面に貼ってあったたくさんの付箋紙から、会社全体の大きなカイゼンに発展していった事例でした。

現場には本当にたくさんの情報が飛び交っています。コンサルタントである私にはこの現場での情報が大変貴重です。コンサルタントは外部の人間であり非常勤なので、持っている情報が非常に少ないからです。そこで私は現場では視覚、聴覚をフル稼働させて情報を集めています。今回は現場で作業していた方々の生の声をしっかり聴いたことで生まれた大きなカイゼンのお話しをいたします。

30年くらい前の話です。まだ若く新米のコンサルタントであった私は、始業時、作業服に着替えて社長にご挨拶を済ませると、一人で現場に行きカイゼン指導をするという仕事の進め方をしていました。実はこのころ一つ悩みを抱えておりました。5Sなどのカイゼンをするので現場の見栄えは良くはなるのですが、経営的な効果(売り上げ、利益、キャッシュフローなど)には十分に貢献できていなかったのです。

その頃ある機械加工の会社からカイゼン指導を頼まれました。契約が決まり、早速現場に行くと、その工場は散らかっていてとても汚く、当時まだ経験不足であった私は果たしてこの会社でカイゼンができるのか心配になったほどでした。普段の5Sの指導であれば、表示の仕方やモノの置く位置といった指導(整頓)が多かったのですが、まずたくさんあった要らなそうなモノ(ゴミだらけに見えました)を捨てること(整理)や容器や設備の汚れを取ること(清掃)をしようと決めました。コンサルタントですから、口頭で指導をするべきだったのですが、その前に整理・清掃だという判断をして、そこにいた私を含めた全員で作業を始めました。

いざ作業を始めると、みるみる職場が綺麗になるので私はコンサルタントという立場を忘れて作業に没頭してしまいました。多分作業服も一番汚していたと思います。しかししばらくして落ち着いて、一緒に働いている皆さんの声に耳を傾けてみると、私にとっては驚くべき会話が聞こえてきました。「前からこういうことをやりたいと思っていたんだ」、「材料の買い方は問題あるよね」、「この設備の位置を変えたいなあ」などなど、素晴らしい内容でした。それらについてちょっと話し合ってみると、とても具体的で実行すれば即座に利益が増える内容でした。この時、現場で現物を前にしての担当者間の雑談の中にすごい答えがたくさんあることを発見しました。

結局その日は夕方まで作業をし続けました。現場は明らかにきれいになり、カイゼンの方向性がはっきりしたので、私としては大成功です。しかしその時、私には大きな心配がありました。終了後社長にその日の活動を報告に行くのですが、作業ばかりではコンサルティングとはいえないと叱られるかもしれないと思ったからです。ドキドキしながら、まずは皆で整理と清掃をしたことを正直に話し、その過程で従業員の方たちから発せられた意見をご報告したところ、普段は聞けない社員の声を聞けたと社長は大変に喜んでくださいました。叱られるのではなく、ほめられたのです。驚いた私は、この発見を仕事に生かす対策を2つ考えました。1つはもしここに社長や技術や管理の方もいて一緒にカイゼンをしたら、もっといろいろ見つかりそうなので、トップや他部門の人たちも呼ぶ。もう1つはこれを丸一日かけるのではなく、3時間くらいで終了したい、ということです。

このやり方を考え始めてしばらくした頃、自動車関係のY社からカイゼン指導依頼がありました。私は引き受ける際に、この時に考えた、社長を筆頭に幹部の方も入って一緒に整理活動をして、皆で問題を発見してカイゼンするやり方を提案し、了承をもらい実行しました。結果は驚くべきもので、現場の問題を全員で解決することができ、材料、中間品、完成品の全ての在庫が半分以下になり、不安定だった納期は完全に守れるようになり、その時厳しかった経営状況があっという間に好転しました。この時からそれまで持っていたコンサルタントとして経営成果を出せていなかったという大きな悩みが解決に向かい始めたのです。

私はこの時以降、このやり方にこだわり研究し、最終的には「KZ法」という技法に発展し、2006年に慶應義塾大学から博士号を戴きました。このKZ法についてもいずれ改めてお話をさせて戴きたいと思います。