○○なカイゼン 第二話

第二話 人のふり見て我社を直せ

『柿内幸夫の〇○なカイゼン』、第一回は「偶然の産物と副産物」というタイトルでお話しいたしましたが、いかがでしたでしょうか。このシリーズはカイゼンの現場で起きたノンフィクションの私の体験談です。現場で起きたすごいことを見逃さず、より深め更に広めて行きたいと思います。今回は「人のふり見て我社を直せ」のタイトルでお話しをいたします。

M社は新しいビジネスモデルが成功し、10億円強であった売り上げが4年で30億円へと急増しました。しかし成長が速すぎて、従業員の教育訓練やシステムの対応が追い付かずミスが増え、顧客からのクレームが急増して困っていました。

そのような状況下で私が呼ばれ、カイゼンで対応することになりました。一通りの説明を受けた後、まずは社長と現場で説明を受けていた時に、社長がパソコンで仕事をしていたパートタイマーのAさんをこっそりと指して、「彼女は最近大きなミスをしました」と教えてくれました。問題を起こしたことでかなり反省されたのでしょう、Aさんのパソコン画面には実行したカイゼン内容の書かれた付箋紙がたくさん貼られていました。

ところが隣合って同じ仕事をしている数人の別の人たちはまだ間違いをしていないのでしょう、パソコンに付箋紙は一枚も貼られていませんでした。しかし同じ仕事をしているのですから、同じような状況が来たら彼女たちもAさんと同じ間違いを犯す可能性は相当高いと思いました。

そこでまだ問題を起こしてはいない他の人たちがAさんの失敗の内容を聞いて、事前に同じ対応をすれば間違いの発生を防ぐことができるのではないかと考え、同じ仕事をしている仲間の人たちにAさんの対策をまねて実行するということを提案しました。問題を起こしていない人たちが、事前に対策を実行してもらうというお願いを聞いて下さるか?と心配しましたが、案ずるより産むが易し、皆さんは快く引き受けて実行してくださいました。結果はとても良く、皆さんもミスをしないか心配であったのが、いろいろなカイゼンを織り込むことで間違えない自信が付いたとおっしゃったのです。良い結果が出たので、私は社長にお願いして、ミス対策を実行して再発防止をしたAさんにも、それをマネて未然防止をした仲間の人たちにも全員にご褒美をだしてもらい、皆さんにとても喜ばれました。

この時、私はこれを会社全体の仕組みにすれば、良いカイゼンをどんどん広められそうだ…と思いました。マネでも修理でもどんなに簡単なことでもいいので、それらをカイゼンであると認め、そのカイゼンを各人に毎月一件以上実行してもらい、ご褒美を出す仕組みです。普通の改善提案制度というと、「マネはダメで、金額効果もある程度なければいけない」といった高いハードルがあるのですが、これはその逆のとても低いハードルの仕組みです。

一人毎月一件で一年に12件、210人の職場であったので、年間2,500件のカイゼンを実行して報告する目標でスタートしましたが、なんと一年間の合計で10,000件越えのカイゼン実行が報告されました。最初はいくらたくさんできても、小さなカイゼンばかりでは大した成果にはならないという人が多かったのですが、ミスをしても対策して広く共有できれば褒められることなどから皆さんのモチベーションが向上し、また発表会などを通じて業務の連携などが進み大きな成果が出るようになりました。その結果、問題発生が一気に五分の一に下がり、在庫が1億円近く減りました。従業員の定着率も上がり、リクルート費用が激減しました。これはとても大きな経営成果です!

カイゼン経験の少ないM社だからたまたま成果が上がったのかもしれないとも思いましたが、指導先の他の会社にも横展開したところ、どの会社でも大きな成果が上がり、このやり方には、すべての人が持っているカイゼンという潜在能力を引き出す何かがあると分かりました。ここから発展して、私のカイゼン手法の一つである「チョコ案」が生まれることになります。チョコ案についてもいずれお話ししたいと思います。