これまでたくさんの工場のカイゼン活動を見て来ましたが、製造現場の活動が中心であり、現場の人たちが事務所の人たちにも自分たちと同様に積極性を持ってカイゼンをしてほしいと思っている工場も多くありました。当然のことですが、現場と事務所はお互い関連し合っているので両者ともにカイゼンをバランスよく実行する必要があります。
設計遅れや部品納入遅れなどの事務所が原因の不具合は、現場作業の生産性を落とす原因になりますが、問題を起こした事務所の部門が解決のためにどのようなカイゼンをしているのかが分かりにくいことが多いと感じます。
そこで今回は個人の仕事量を把握することで、各部門内で個人がボトルネックになっていないかを調べカイゼンに結びつけます。
方法は、各個人の仕事内容を細かく時間記録してもらうことから始めます。これまで見えなかった、手待ちが多い人、仕事量を多く抱えている人、あるいは一つの仕事に時間をかけ過ぎている人などの存在が数字を介して把握されます。仕事量や仕事内容の偏りの問題が見つかれば、それをカイゼンして人手を浮かせて、問題解決に向ける余力を生み出すことができます。事務所のカイゼンが見えにくい理由の一つとして、製造現場のカイゼンには生産性向上、品質向上、リードタイム短縮などの数値化された目標があります。一方、事務所カイゼンにはそのような分かり易い数値化された目標が少ないことがあるのではないでしょうか。
A社ではそれまで低調であった事務部門全体のカイゼンを活性化したいと考えていました。まずは社長と私とで事務所の仕事の進め方を見てみようと、事務所内で行われる朝礼に参加しました。朝礼は約15分で内容はその日に各人が行う仕事内容の報告でしたが、その仕事を何分でやり終えるといった数字が入った説明をした人はいませんでした。またその仕事にはこういう問題があるのでここを工夫するといった発言もありませんでした。
社長はこの様子を見て、事務所の各人の仕事に時間感覚や目的意識を持ってもらうことの重要性に気付き、その場で事務所のカイゼン活動を活性化することを決めました。
活動の第一歩は個人の仕事量の把握から始めることとし、事務所の人全員が10分単位で仕事内容の記録を取ることとなり、全員に用紙を配りそれに記入してもらいました。紙に書くということだけでしたが、実にたくさんの問題が浮かび上がりました。予定通りに仕事が進んだ人はもちろんいましたが、予定した時間よりも多くの時間がかかっている人や周囲の状況によって予定が変わった人もいました。驚いたことに、前工程の仕事の遅れでその日の予定が全く無くなり手待ち状態になった人もいました。
各担当者は自分の仕事を時間記録することで自然に緊張感が生まれ、その時点で仕事が効率化することも起きました。仕事の遅れを自覚した人は、自分の仕事を振り返って効率化やスキルアップを行い、具体的な時間短縮カイゼンを始めました。予定が変わった人はプロジェクトマネジメントを意識して、優先順位付けや仕事の流れに合わせてバッファーの有る仕事のやり方にチャレンジし始めました。手待ち状態になってしまった人の中でも特に周りに影響される人は、別の人のサポートに回れるように多能工化訓練を受けることになりました。このように個人の仕事を把握することで、部門の仕事のやり方に大きな発見がありました。今後はこの結果を分析して部門全体でのカイゼンの取り組みが始まる予定ですので、更に大きな変化が期待できます。
事務所の個人の時間調査により、事務所従業員の中にある潜在的な手待ち時間や仕事の割り振りのまずさによるボトルネックの存在が分かります。そこから事務所が抱える問題を解決する手がかりをつかんでカイゼンに結びつけていくのです。