カイゼンとは? 第十四回

カイゼンの基本14 ~事務所のカイゼン1~
 1-1. 事務所もカイゼンが必要 5Sやカイゼンは現場だけではないのか?

先回まで生産現場でのカイゼンの基本についてお話しして参りましたが、今回からは事務所でのカイゼンについてお話をいたします。

工場のカイゼンは全部門の参加で行うものと言われているのをしばしば耳にしますが、実際には事務所の人たちが「5Sやカイゼンは現場の仕事でしょ...」といった認識を持っていて、カイゼンへの参加度合いが生産現場と較べると低い会社を多く見かけます。デスクワークの場にはカイゼンは必要ないと思っている人は多いのです。

言うまでもなく、事務所もカイゼンの実行が必要です。なぜなら事務所の仕事が遅かったり不正確であったりすると、当然のことながら製造部門の仕事にも遅れや間違いが発生し、場合によっては売り上げを落とすことが起き得ます。あるいは、せっかく製造部門が実行したカイゼンも、事務所の仕事が遅れたり不正確であったりすることによって成果をあげられないことが起き得るからです。そうではなくて、事務所がカイゼンをすることで製造部門が実行したカイゼンが更に効果を出すようにしていきたいものです。

では事務所のカイゼンはどのような手順で実行するかですが、製造部門がカイゼンをしている時に、事務所も自分たちのカイゼンを進めることが可能です。最初のステップは製造部門で実行したと同じく5Sの整理・整頓から始めます。意外に思われたかもしれませんが、どのような業界であれ部門であれ、5Sはカイゼンの基本中の基本であり、これを飛ばしてしまうと、別のどんなことに着手しても十分な効果を上げることはできません。

例えば、デスク上にすぐ使う書類や文具だけを使いやすく置けば、当然ですが仕事の効率や品質も向上します。加えてお客様が来訪した際には、整然とした事務所の印象は好感を与えます。実際には事務所の5Sは部署別、個人別にバラツキが多く、スッキリしたデスクと散らかり放題のデスクが隣り合わせているといったこともよくあります。

そこで事務所の5Sを始めますが、私が事務所のカイゼンをする時は、まず鳥の目を使って事務所の全体レイアウトを大きく見ることから始めます。特にキャビネットやコピー機などが使いやすく合理的な動線で目的地(?)にたどり着けるようになっているか、あるいは共有のスペースが本当に使いやすいかなどを見ます。多くの場合、コピー機やキャビネットは壁に沿って配置されていますが、それ以外のレイアウトも可能です。しかし1つのモノを動かすだけでもそれに伴って多くのモノを動かす必要があることが多く面倒なので、不便な状況であるにもかかわらずそのままになってしまうのです。

最近私が見た面白いカイゼンをしたA社では、それまで大きな事務所のカイゼンはされていなかったのですが、生産現場と同様に皆でカイゼンを行うことになりました。実はほとんどの人が以前から問題が多いと思っていたので、皆で話し合いをしたところコピー機や共有のキャビネットの位置、そしてコピー用紙やボールペンの補充などのルールなどについてカイゼンのアイデアがたくさん出てきました。そこでレイアウト案をホワイトボードに描いてみると、それは機材を事務所の中央に配置するなど、これまでと違い明らかに効率的で働きやすいものでしたが、それまでやったことがない大掛かりなレイアウト変更が必要で、皆は実現したいけれど難しいと思いました。

しかし、そこにいた社長がそのアイデアの実現を強く望んでくれたので覚悟が決まり、丸一日の時間を取って事務所の全部門の全員参加で実行することを決めました。技術の課長がプロジェクトリーダーになり、若手中心でプロジェクトチームが構成され、当日必要な器材や材料が手配され、手順や役割分担が決まりました。実行当日は皆が作業服やトレーナーを着て、リーダーの指示に従ってテキパキと作業を進め、一日を予定していましたが、ほぼ半日でレイアウト作業が終了し、残り半日でスペースの使い方や共有物の管理ルールなどが話し合いで決められました。それまでは私物を机の下に詰め込んでいる人がいたり、タコ足配線の場所があったりとルールが不明確でばらつきがありました。これまでは一部の人たちによる部分的なカイゼンであったので他の人たちの協力を得られずすぐに元に戻ってしまうことを繰り返していましたが、全員の参加を得たことで片付けも進みルールの順守などもできるようになり、全員で実行するカイゼンが効果を生みました。

事務所は生産現場と違い、それぞれの人が別々の課題を持って働いているので共通の課題を持ちにくく全員が一緒にカイゼンをすることが少ないのですが、A社の事例でお分かりのようにやればできることです。事務所の全員でカイゼンを実行しましょう!