現場カイゼンレポート 第九回

敢えてムダなムダ取り活動をして成果をあげた事例 その1

私は健康のために毎日1万歩を歩くことを日課にしています。目標を決めたら守りたいたちなので、少し体調が悪くても無理して歩くといった目的と手段を取り違えた判断をしてしまうこともあります。今回はモノづくりの現場でもそのような判断をしてみたところ、思わぬ成果が得られたお話しをします。前回に引き続きプレスの事例をもう一つご紹介いたします。

自動車部品を作っているA社のカイゼン会での出来事です。A社では受注した新部品の立ち上げに対してプレス工程の生産能力が不足していることが判明しました。多品種の生産に対応するために設備を増設することも考えましたが、工場が狭く十分なスペースがないこともあり、まずは既存の設備のままで対応することに決めました。品種の増加をするためには、生産量をいかにして増やすかが課題でした。

プレス工程は以前からA社のボトルネックであり既にフル稼働状態となっていたため、残業や休日出勤などによる時間の延長余地はありませんでした。サイクルタイムもこれまでのカイゼンで限界レベルまで回転数を上げており、それ以上のスピードアップは望めませんでした。既存設備で対応すると決めたものの、果たして実現可能なのか? そこで次に段取り作業を観察したのですが、こちらも工程のすべてが10分未満で終了するシングル段取りでカイゼンは困難に思えました。「これ以上時間を減らすのであればボルトの数を減らすことくらいしか方法は浮かびませんね」と誰かが諦め半分で言いました。段取り替えの主な工程は金型の変更とボルトでの固定ですので無駄な時間というものは特には存在しなかったからです。

それを聞いた工場長が「全員ですべてのボルトを対象にカイゼンしてみよう!」と号令をかけました。他にカイゼン余地がみつからなかったので、ここに全力を傾けるしかないという切羽詰まった状況での号令でした。できそうなところをカイゼンするのではなく、全プレス機のすべてのボルトに対して、「変えられないか?減らせないか?できればなくせないか?」と問いかける極論のカイゼン活動を開始しました。本来のカイゼンは生産性向上や品質向上が目的で、そのための手段としてボルトのカイゼンがあるのですが、この時はボルトをなくすということを目的としてカイゼンを行ってみたのです。極端な言い方をすると、「どんな汚い手を使ってもいいからボルトをなくせ!(笑)」といったノリでした。その結果、ほとんどのボルトに対して何らかのカイゼンが行われたのです。中には実行に時間がかかり過ぎ、効率的とは言えないカイゼンもありました。例えばボルトで取り付ける代わりに蛍光灯の取り付けに使われているL字型の嵌め合いを使って型の取り付けを行った例ですが、精度の出し方などが難しく、手間暇をかけた割には他の方法でも十分に出せる普通の成果でした。しかしこのようなやり方で全員が知恵を絞った結果、どんなボルトでも何らかのカイゼンを行うことができるという発見があり、そこから新たなアイデアが生まれ目指した生産量を達成するという好循環が生まれました。結果として最初は無理だと思った新部品の立ち上げも楽々できてしまったのです。ムダ取り活動であるにもかかわらず、あえてムダなこともやるような活動をした結果、活動は非常に盛り上がり、アイデアが多く出て更に大きなムダ取りができたのです。

次回はその具体的な事例をご紹介いたします。