モノづくりの現場探求 第二十三回

安全対策3 未然防止

これまで安全に関してハインリッヒの法則、人間の意識フェイズ、そして再発防止についてお話しして参りました。今回はその最終回として未然防止についてお話しします。

再発防止は起きた事故の原因を分析し、対策を取ることです。機械に手を挟まれる事故があった場合は、手が入らない様に安全カバーをセットすること等が対策であり、他の機械にも拡大適用します。これにより事故の再発はかなりのレベルで抑えることができます。

しかしやはり「起きてからでは遅い」のです。どんな事故も起きない様にしなければいけません。そこで再発防止で行った対策を拡大して、未だ起きていないけれども事故発生の可能性がある事象を発見して対策を打つのが未然防止対策です。例えば、その機械に関して「挟まれる」だけでなく、他に「火傷」や「打撲」、「感電」などの可能性がないかを検討して手を打つことができればそれは未然防止の対策となります。ヒヤリハットの経験の共有や、他部署の人との別の観点からの意見交換など、多様性のある議論の中から事故発生の可能性を見つけて未然防止対策を取ることです。

実際には、事故発生のメカニズムはここでご紹介するスイスチーズモデルのようにとても複雑です。モデルではいろいろな穴が開いたスイスチーズを事故防止の対策に例えています。現場は不均一に穴が開いたたくさんのスイスチーズ(対策)が重なっていて、反対側からの光が通過しない状態が無事故状態なのですが、一枚のチーズがちょっとずれて光が通れば事故が起きる危うい構造だということです。更に安全性を高めるには、他にどのような対策(チーズ)があるのかを探し追加する、あるいはそれぞれの穴を小さくする方法を議論することが求められますが、それでも絶対の安全はないということが分かります。


過去の経験を活かせるのであれば対策も打ちやすいのですが、そのような経験が全くなく突然に事態が起きることがあるのも現実です。最近で言えば、新型コロナウィルス感染拡大の状況に於いて、私たちは未然防止の手段を取ることができたでしょうか?

万全の注意を払っていたにもかかわらず、コロナにかかってしまった人はたくさんいらっしゃいます。本人の不注意とはとても思えない状況があるのは事実です。このような場合にどのような対策があるのでしょうか?

テレビなどの報道を見ると、過ぎたことを遡って責任者を特定してみたり、あるいは重箱の隅をつつくようにして問題を見つけ不安を煽るような風潮が強く、具体的な対策に到達する方法になっているとは思えません。

私は、こういう時の未然防止の対策は、「仲間と団結して挑戦すること」だと思います。万全と思われる対策を打ったにもかかわらずコロナにかかってしまった、どうしても防げない…。この事実に対してみんなが一丸となって問題に立ち向かい、どういう対策を実行するかを考えるのです。コロナに感染した人が責められることもない心理的安全性が高い職場で、普段から皆で情報を共有化してベストの対策が取られることが望ましいと思います。これができるためには、日ごろからの訓練が必要です。私が好きなワイワイガヤガヤのカイゼンの実行を通じて変化に対応する行動を当たり前にする。あるいは多様性のある部門からの人が集まって幅広く深い議論をするなどです。

経験のないことが突然起きる事はこれからもあり得ます。その時に既存の対策の不備を責めてもしょうがありません。それよりは前向きな気持ちをもって皆で挑戦することが大切です。私は未然防止についてはこの部分の大切さを常に強調しています。

皆で普段から助け合いながらカイゼンを実行することが、事故などの未然防止の大きな手段になるということです。