プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第126回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか DX時代のプロジェクト(その10)

前回は、企業の内部資源の活用方向を同業界や同業者に働きかけて、それらの資源を活用することでした。ひとつは自社のカイゼン活動を他社に展開することがありました。これは自社と関係が深い部材納入メーカーや下請けなどの協力企業を対象にすることでした。好結果につながれば支援先企業のみならず、自社にも品質やコスト改善などの効果があります。そしてその効果が永続することも期待できます。管理会計を強化することについても述べました。企業の損益が決算期にならないとわからないようでは大問題です。生産現場で担当する製品について個別損益の見える化を実現して改善目標を設定するなどの取り組みにつなげることを説明しました。前回の最後の話題として、同業者で連携することを取り上げました。
今回は、その続きとして協業や企業連携などについてさらに考えてみます。

【1】統一ブランドを持つ中小企業の連合
これは前回取り上げました。ドイツに出張したとき、ミュンヘンで開催された研磨剤の国際見本市を見学しました。この業界の中小企業が連合して統一ブランドを持ちそれぞれの企業は自由に活動するということでした。連合といっても緩い、それだけ自由度が大きい連合体でした。

これに比べれば、東京都の産業政策の下に組合組織を結成したメッキ業界の場合は、中小企業の合併と同様な効果をもち、中小企業を中堅企業へ成長させるものでした。自治体の政策で企業規模の拡大を目指す実施例でした。

【2】同業者で連携するための情報収集
前回も述べましたが、現在は企業の合併や買収はわが国においても、特に珍しくない状況になりました。いきなりそこにジャンプするのではなく、統一ブランド、信頼度向上、事業承継、自治体の協力などの観点から協業、企業連携、企業連合や同盟など自社に適した企業のあり方を視野に入れておくことも必要ではないかと考えます。

その場合のきっかけとして、自社で手がまわらないもの、欠けているものを補うことが考えられます。つまり、他社の得意技を学ぶことになります。現状で言えばDXの導入は真っ先になるでしょう。定番の課題としては人材募集と確保、人材育成・定年延長などに関わる人事制度などがあるでしょう。また、輸出・海外進出を検討中でしたら、既に海外拠点をもち海外ビジネスを継続している中小企業も数多くありますから参考になるでしょう。

これらの情報収集のために、まずは地方自治体の担当部署が役立ちます。どの自治体でも産業振興のためのサービスがあり、このような公共サービスの活用がお薦めです。東京都の場合、東京都中小企業振興公社があります。そこで相談員を勤めている筆者の知人から業務内容を聞いたことがありましたが、そのサービスの幅広さに驚きました。

【3】少子化・高齢化の影響
生産年齢人口(15歳以上65歳未満)について、わが国では1990年代がピークでそれ以降は下がり続けています。
これとは別に「労働力人口」という定義があります。これは、15歳以上で働く能力と意思をももつ人の合計で調査・計算されています。労働力人口は生産年齢人口とは異なり、年齢の上限は無く、働く意思や能力によって人口が決まります。まさに「労働力」についての有効な指標です。その労働力人口は、生産年齢人口とは異なり下がり続けることはなく15歳以上の人口増加とリンクしています。しかし、早晩、これも頭打ちになり減少することになるでしょう。

図 15歳以上人口 労働力人口 1948年~2021年 年平均

出典 総務省統計局 「労働力調査」


労働力人口の減少、つまり働き手が不足することになります。また高齢者が増えることによって介護離職も増えることになるでしょう。
企業がとる対策は、働き手の事情、結婚・出産・育児・介護などがあっても就業が続けられるようにすることです。就業規則の変更なども含め、企業がやれることは全て対応する必要がありますし、その価値も充分にあります。また、パート、アルバイト、派遣社員などについて正規雇用にするなどで労働時間を増加させる対策も必要になるでしょう。

【4】生産性向上はつねに真正面の課題
企業内における生産性向上の取り組みについては、従来以上に加速させる必要があるでしょう。サービス業においては、労働力の確保がうまくいかなければ、直ちに売上が減少することになります。製造業においても、人材確保がますます難しくなることは目に見えています。自動化、省力化、外注化などの生産性向上の範囲だけでなく、品質向上の取り組みによるロスの削減も同様な効果があるでしょう。

企業内の取り組みの他に企業間の連携による生産性向上もあります。同業種企業との提携や連合・製造プロセスの共用、垂直連合(プロセスの上流から下流までを連携する)、あるいは地域間の人材連携(工業団地内などでの人材の融通)などが考えられます。

いずれにしても、わが国の労働力人口が減少することを前提にしたスケールメリットを追求することが生産性向上につながります。わが国は世界的に見て中小企業の比率がきわめて高いと言われています。筆者は、これこそがわが国の多様性のもとであり「世界が称賛する日本の暮らし」を実現している大きな要素のひとつと考えます。これらを失うことなく、生産性向上の課題達成はできると考えています。

注)「世界が称賛する日本の暮らし」・・ニューズウィーク日本版(2022.8.16発行)の特集記事