10月のご挨拶

 10月になり、秋らしいさわやかな日々が続くようになりました。「秋の夜長」を大いに活用して良いアイデアを出したいものです。今月は私が秋の夜長に考えていることをテーマに選びました。

つい最近のことですが、私はコンサルタントとしてある大切なことに気付かずにいたことを発見しました。自分のことなので書いていいのか迷いましたが、書いてみます。もしかすると私だけではない可能性もあるからです。

数か月前、ある教育系の出版社から、そこが発行する機関誌に『リーダーが進める職場のカイゼン』といったタイトルで文章を書く依頼がきました。お役に立てるのであればと喜んで引き受けました。

まずは章立てを考えました。『カイゼンとは』から始まって、『KZ法』、『チョコ案』、『日本独自のDX化』、『ショールーム化』等を書き、最後に『これからのカイゼン』で締めくくる合計11章を書くこととし、出版社の同意を得ました。1章が2000文字くらいのコンパクトな構成です。

すべての章の内容は、私がカイゼン会や講演会で普通に実行したり話したりしていることで、ほとんどの資料は頭の中にあります。まずは気楽に書き始めて、順次担当の方にチェックを受ければ、問題なくスムーズに進むと思っておりました。

ところが、自信を持って書いたKZ法の文章が、「意味が分かりづらいので、もう少し説明してほしい」とのお返事を戴いたのです。

KZ法は私が考えて作ったオリジナルのカイゼン技法です。この技法をテーマにした論文で博士号を授与され、『KZ法 工場改善』という本も出しました。現場での実践も100回を超えていると思います。その私が書いた文章が読んで分りづらいと言われてしまったのです。担当者の方が分からないということは、読者の方も分からないということになります。もしかすると、これまでもこのようなことが起きていたのかもしれません。私としては長年KZ法をやって成果をあげて来たと信じておりましたのでショックを受けました。

担当者とやり取りをしているうちに気がついたことがありました。今回の文章は非常に短くコンパクトな構成で、本のようにたくさんの説明をすることができません。そこで私は、通常の現場で実践している時のように、KZ法のやり方に多くの字数をさいたのです。しかし、それではKZ法というものに初めて触れる読者には、内容を理解できなかったでしょう。今回私が最初に書いた文章には、KZ法の進め方はあるけれど、ナゼこれを実行するのか(?)、実行したらどうなるのか(?)の目的や効果等をきちんと説明しなかったのです。「そもそもKZ法って何?」という当然の疑問にお答えしていない文章でした。使う人の立場に立って、最も求められていることは何か(?)から構想するべきでしたが、できていませんでした。今回の編集者からの指摘を通じて、これまでの私の説明は一方的であり、お客様の立場に立っての説明になっていなかった、プロダクトアウト的な進め方であったと気付きました。しかしこれは今回に限らず、私がずっとやってきた仕事の流れでもあったと思います。これまで問題なく運用ができていたと思っておりましたが、実は私の説明が分かりにくいのでKZ法にチャレンジされなかった方も多かったかもしれない、もしかすると大きな機会損失をしていたのかな…と思い始めました。

今頃気付くとはずいぶんのんびりしていたね…と呆れられてしまうと思いますが、私は今回の気付きを、これからのコンサルティングに活かしていこうと思っています。私に起きた問題についてご報告いたしましたが、皆様におかれましてはこのような問題はありませんかと老婆心を持っております。

お客様にアピールするべき皆様の強みがはっきりと伝わっているでしょうか?お客様にお伝えしていない大切なことはありませんか?あるいは、お客さまから言われていてやり残していることはありませんか?これらを思い起こしてみるのはいかがでしょうか。

寝苦しかった夏の夜が去り、待ち望んだ秋の夜長です。改めてこれまでのお仕事のやり方を振り返ってみるのもいいかと思います。


日本カイゼンプロジェクト
会長 柿内幸夫