モノづくりの現場探求 第二十四回

モノづくりにおけるハラスメント 1

最近、パワハラやセクハラなどが大きなニュースになることが増えています。有名な芸能人や企業トップの方がハラスメントをしたことでメディアに取り上げられ、役を降板したり役職を辞任したりすることも起きています。ハラスメントは誰でもが犯す可能性があり大きな問題を引き起こす潜在的な課題です。今回から合計3回に渡って書いて参ります。

ずいぶん前の話ですが、私はある講習会で参加者から訴えられたことがあります。その時私は受講生と会話をしながら少し気楽な感じで講義を進めていました。具体的には自動車産業の話の中で、その時たまたま目が合った受講者の1人の方が大型自家用車を買い、そしてもう1人の方が小型自家用車を買うと仮定して話をしたのですが、小型車を買うと言われた人が、講義終了後に自分の方が貧乏という扱いを受けたと主催者に訴えたのです(この事例は、内容を事実と少し変えています)。そのことを聞いた私は、「私はそんなつもりはなかったのですが、お気を悪くさせてしまったのは申し訳なかったです」と軽くとらえて気持ちをお伝えしました。そしてその後も大きな問題にはなりませんでした。

しかし、当時はそれで済みましたが、ハラスメントという言葉が生まれ、それに関するいろいろな問題が顕在化している現在でしたら、大きな問題になった可能性は十分あると思います。同じことをしても、以前は大きな問題とならなかったことが、今は問題になるのです。この突然の変化はどういうことでしょうか?

これは弱者の立場に立ってものごとを見るという新しい考え方が急速に広まってきているということだと思います。当時私が大ごとと思わず軽くとらえて対応したというのも、ハラスメントという言葉すらなく、そのように相手の立場に立って気を回すということの大切さの認識が不十分であったからです。

日本の職場は上意下達の風潮が強く、上から目線で下に命令することが普通に行われてきていました。そのようなことが頭に刷り込まれているちょっと古参の管理職の方にとって、今はとても危険な時といえるのではないでしょうか。

つい先日の日経新聞に「新種ハラスメントの氾濫」という記事がありました。その中に、ハラスメントにとても注意していたにもかかわらず、自分が加害者として訴えられてショックを受けた管理職の話が出ていました。かなりの勉強をしたつもりでも世の中の変化の方が速く、生半可な対応では問題を回避できないということです。自分自身も少しずつは変わっているのですが、周囲の評価基準が更に大きく変わってきているので、本人は問題に気づいていないけれども周りが気づいて問題視するということが増えていると思います。

先日、ある団体のトップの方と、この件でお話しする機会がありました。その方が事故はもちろん起こしてはいけないが、ある程度の対応が可能である。しかしハラスメントを起こしてしまい新聞沙汰になってしまうと対応が不可能で組織が一気に壊れてしまう可能性がある。だから今は職員に対してハラスメントを起こさない様にする教育に時間を割いているとおっしゃっていました。

ここでまず必要な事は、周囲の状況の変化について正確に知る事でしょう。例えば厚生労働省がまとめた下記の「明るい職場応援団」の資料などは分かり易いと思います。こんなことがハラスメントになるのかとまず知ることが大切です。

https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/

しかし、ハラスメントの理解が深まるにつれてできないことが増え、それに従って仕事のレベルが下がるということでは困ります。次回にその点についての私の考えをお話しいたします。