モノづくりの現場探求 第十九回

現場で起きた問題とDX化 2 ~DX化するために必要なデータとは?~

デジタルデータは製造の現場においても様々なものがあります。

前回は、人手不足のテーマでデジタル化の活用とその後のDX化へのつながりについてお話ししました。モノづくりの現場には人手不足以外にも、多くの問題や課題があります。そこで今回は人手不足以外の問題にも目を向けてみようと思います。

工場の中には解決しなければいけない問題や、やらなければいけない課題がたくさんあります。例えば、「厳しい環境下での確実な材料調達」、「更なる生産性向上」、「新製品の開発」などです。その中で、『こういうデータがあれば、解決できる』、『このような材料があったらより良いものができる』といったケースは実はとても多いのです。

少し前の時代では簡単に入手できなかったデータや材料でも、デジタルの力を使うと簡単にできてしまうことが増えています。アナログ時代のカイゼンをデジタルの力を使って更に一歩も二歩も前進させることができます。そのデータや設備などのデジタルを使ってさらに良いものを生み出すというのはDXになるといえると思います。これはアナログ型のDXといえるのではないでしょうか。私なりに日本の生産現場のDXを分かり易くお伝えすると、こういうことなのだと思っています。

「確実な材料調達」、「更なる生産性向上」、「新製品の開発」、これらのテーマは決して新しいものではなく、むしろこれまでも最優先で手を付けてきたものであるかもしれません。しかし、ずっとやってきたからこそ、もうこれが限界だと思ってしまう、これは現場で自分の手でカイゼンを実行してきた人が持ちやすい気持ちです。自分たちだけでできることを積み上げてきましたから、一旦限界にぶつかると、先が見えなくなってしまうからです。

ここで求められているのは「どうすればできるか?」と質問するのではなく、「どんなデータがあればできそうか?」を一緒に考えることなのです。一度、頭から限界意識をどけて、鳥の目で全体を見てみようということです。しかしこれは、これまでその仕事をすべて一人で実行してきた人には難しい質問かもしれません。そこで関係する部署の皆さんが集まって本音で議論をして答を見つけて戴きたいと思います。

先日、機械加工の工場で「確実な材料調達」についての議論をする機会がありました。生産現場に材料が届かないという問題が続いたので、製造と材料調達と営業の担当者3人が集まりました。調達担当者は営業からの指示で買っており遅れはないと説明し、営業担当者は情報を早めに出しており問題はないと主張しました。最初はお互い冷静に話していましたが、これでは解決に結びつく説明になっていないので製造の人は納得せず、興奮して大声で議論する状態になりました。しかし実際に現場でモノを見ながら話をしているうちに、営業担当者が出している情報の一部に週単位のものがあり、日単位で生産計画をこなしている現場の要求とのズレを発生させていることなどが分かりました。「どんなデータがあればできそうか?」の答がその瞬間に生まれました。たまにはケンカになってもいいので、主張をし合うことで、予想もしない新しい答を得られることもあります。

それぞれの人が自分のできることをきちんと行っていても、このようなズレがあると良い結果は出ません。気付かないままに担当者が苦労していることが意外と多いものです。DX化を目指すというと難しいデジタルの話になると思われることが多いのですが、材料が届いて削られてモノができる現場の現象はすべてアナログです。ここにムダがあるとデジタル化してもムダが生じます。DX化をするために必要なデータは必要な人が行う本音のやり取りから生まれるといっていいのです。

そして、ほしい情報や材料が見つかったら、専門や得意分野のある方に協力を仰いでシステムにしていきましょう。スマホが得意な若い方の活躍の場も大いにありそうです。

世の中を見渡すと、この設備を入れるとDXだ、このソフトを入れるとDXだ、といったものはがたくさんありますが、それら全てが会社にとって必要なDX化かというと疑問があります。現場の声から生まれた現場に必要なデジタル化や、DX化がその会社に適切なDX化だと思うので、みんなで何が問題解決に必要なのか、どのようなデータが必要なのかをワイワイガヤガヤと議論して戴きたいと思います。