モノづくりの現場探求 第十四回

人の育て方 ~柿内流「考える」はカイゼンのやり方そのもの 2~

(先回のあらすじ)
自動車の点検や修理をする整備工場でのカイゼンで、営業部長が本当はもっと注文を取れるが、工場の生産能力が低いので注文を抑えている状況だと教えてくれた。工場は柿内流の5ステップの考えるカイゼンを実行して生産能力を上げたが、その成果は営業部長の想像を大きく超えた生産能力向上であった。そのため、営業はそれに見合った注文が取れず、工場に手待ちが発生し始めた。

*********************************

次は販売量を増やす必要が出てきたのですが、営業部長は、先にカイゼンで成果を上げた工場部門にサポートを依頼しました。部長は当初、工場のカイゼン活動を少し傍観者的に見ていたのですが、日に日に現場が良くなっていく様子を見て、カイゼンの良さに気付き始めていました。そして自分たちが経営上のボトルネックになったことで、工場に倣って自分たちもカイゼンを実行するべきだという当事者意識を持ち始めたのです。そこで工場の成功体験から、営業も5つのステップでのカイゼンを始めました。

① 営業と工場の両部門の代表者数名が一緒に現場観察を開始しました。工場の人は作業服から私服に着替えて、まずはショールームでお客様が店頭にいらっしゃる様子を観察しました。次に事務所で営業部員が電話で営業をしているところを見ました。初めてその現場を見る人と、ずっとその現場を見てきた人達が一緒に現場を見てみると、これまで気付いていなかった多くの問題が発見されました。
② 営業の現場の方たちに話を聴くと、更に多くの問題が発見されました。例えば、工場はカイゼンでお客様の待ち時間を短くして成果を出していましたが、それでもお客様と一緒にいる小さいお子さんにはまだ長く、待ちきれず駄々をこねる子もいるようです。あるいは、営業窓口の人が整備内容を説明するのですが、お客様が納得できる説明ができない時があり困っていました。そして営業の人がお客さまと電話で整備の日程を決めるときに、情報不足で負荷の山谷が無い平準化された日程を作ることができていませんでした。
③ 次にみんなが会議室に集まって、アイデア出しをすることにしました。それまで、工場と営業はじっくり話し合ったことがなかったのですが、営業はカイゼンで現状を変革しようという気持ちが強く、両部門間に良いチームワークが生まれ、非常に前向きなアイデアが出たのです。例えば小さな子供が飽きないように、ショールーム内に遊び場を作るという当時としては非常に新しいアイデアが出ました。あるいは営業の人がお客様にうまく説明ができない時に、工場側で手伝ってくれないかという要望が営業から出ました。また平準化の件では、営業は工場の混雑状況の実態が分かっていないという状況が明らかになりました。
④ これらのアイデアは工場部門の協力も得ながら営業部員の全員の参加で即座に実行されました。子供向けの遊び場は、最初はショールームの隅の小さなスペースにおもちゃと絵本を並べただけでしたが、好評であり徐々に面積を広げ、小さな滑り台や乗り物も置かれ、立派な遊び場になりました。これで退屈して駄々をこねる子供が激減しました。お客さまへの説明を忙しい現場作業中の人が引き受けることはさすがにできませんでしたが、工場の人が講師になって勉強会を開き、営業担当者の知識レベルが向上し、問題が解決されました。平準化対策は、工場から一週間先の実際の混雑状況を営業に定期的に伝えることになり、スケジュールの平準化が上手にできるようになりました。
⑤ これらの対策がどのようにお客様数の増加に貢献したのかを分析し、次にどういう対策を実行すればいいかを考える”Think”のサイクルを繰り返しました。このようにカイゼンを行うことで、営業部門が工場の生産性向上に見合った売り上げの増加を実現し、売り上げと利益を増大させ、大いに経営貢献しました。

この事例に限らず、私は常にこの5ステップに添ってカイゼンを実行していますが、一番大切なポイントは、この「考える」ということが、「覚える」や「思い出す」といった頭で考えるだけのことではなく、現場・現物でできることをすぐにやってしまう行動を伴うステップだということです。

①現場に行って現物を自分達の目で見る。
②そこで働いている人に話を聴く。
③それらを元にどうしたらいいかを議論する。
④すぐにできることを実行する。
⑤その結果から次に何をするかを考えて、問題や課題が解決されるまで繰り返す。


この過程でいろいろな立場の人が参加して独自の考えが引き出され、結果としてより全体最適な大きな成果に結びつくカイゼンが生まれます。書いてしまうと当たり前のことですが、とても有効なアプローチです、どうぞご活用ください。