新・虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第18回

粉文化と粒文化の違い

● ヨーロッパではパンですが、日本は米が主食です
 日本では99%が主食のご飯での食事でした。パンはお菓子であり、おやつの部類になっていました。ヨーロッパに行くようになり、逆に朝昼晩がパンになってしまいました。ドイツでご飯を炊くことはありませんでした。
 しかし、食についてのコラムを持った10年前から、ドイツでもご飯も食べるようになりました。炊飯器を買うのはもったいないので、小さな鍋や100均のレンチン用の容器やったりしましが、難しいものです。パックになったご飯もお世話になりましたが、炊飯器での品質の良さと便利さを改めて思い知りました。
 フランスのクロワッサンはとても美味しいですが、ドイツのパンもとても美味しいものがたくさんあります。ポイントは焼き方にあるようです。またパンに小麦だけでなく、大麦、ヒマワリの種など、実に様々な材料をアレンジして美味しく焼き上げます。
 デュッセルドルフの日本人の女性たちから、食べ比べして推薦したパンがあります。ホームパーティーの時には、少し遠いですがわざわざその老舗“HINKEL”に買いに行きます。パンのブランド品であり、この店の黄色のパッケージを持っているだけも絵になります。
 ヨーロッパは乾燥している気候なので、小麦や大麦という水を余り必要としない穀類の栽培になります。それらを粉にして焼き上げる食文化になっています。パンは切ったりすると粉が出て食卓や床にこぼれます。
 昔は泥靴を履いたままで生活をしており、床にこぼしても問題になりませんでした。アイゼンナッハ市の企業に行った時、バッハの生家が現存して博物館になっており、その企業の計らいで閉館後に特別に館長自ら説明と当時の楽器演奏もしてもらいました。
 さらに近くのレストランにも招待されました。テーブルに等間隔に穴が空いているので、なぜかと聞くとその穴に牛の角でつくったコップにビールを入れて置く場所だという。コップ代わりの角はとがっておりその穴にさしておけばよく、座る場所も決まるという具合です。
 そのレストランは昔ながらのやり方で、手で直接食べるやり方でした。こぼれても大丈夫なように麦わらが敷いてありました。当時は鶏を屋内で飼っていて、こぼれたパンくずなどを餌にして、わらはそのままフンのついたものを肥料にしていたというのです。
 合理的なドイツの考えに脱帽したのです。パンはバラバラになって、散らかることが前提になっています。
 日本では、土足を脱いで畳に上がり茶碗と箸でご飯を食べます。ご飯粒を1つでもこぼすと両親から大目玉を食らいました。米という字は八十八の手間がかかっており、一粒でもこぼさず全部食べることを徹底されました。

  ● ソバは粒ですが、そばにすると粉にして練りあげます
 ロシアやチェコなど東欧では、一部ソバ(穀類や農作物としてはこの表記をします)をお粥風やリゾット風にして粒のまま食べています。食べる時はスプーンです。ロシアの体操選手やバレエダンサーなどはダイエットも兼ねてソバを愛用しているそうです。
 日本のように、ソバをすり潰して粉にして、そばのように麺にして食べるのはアジア系の中国や韓国の食文化です。でもパンのように発酵はさせません。ソバは、水の少ないしかも痩せた土地に栽培されるのが普通です。
 麺は箸を使って食べます。カップヌードルをどうやって欧米人に食べさせるか悩んだ日清の創業者は、麺を短くしてさらに箸が使えないので、フォークで食べることを試行錯誤の末に考案しました。食文化の違いを、麺を短くする+フォークを使う+包装材と容器一体化という手段を考案し、苦難を乗り込えてヌードルを世界に広めました。
 水と油のように違うものを一緒にするには、乳化剤とか触媒のようにお互いを介在して手をつなぐ仲介者が必要になります。その仲介者を探すのが、好奇心や探求心さらには絶対諦めないという精神力にあるかと思います。実は目の前にあることが多く、空気のように存在は知っていても見えないのできづかないことが多いのです。
 見える化するためには、徹底的に困ること、悩み考え抜くこと、右脳と左脳に情報を一杯入力し時にリラックスすることが、私の経験からいえると思います。別の言い方をすれば緊張と緩和を適度に繰り返す中で、パッと閃きます。
 ご飯ばかりだべるのではなく、パンやソバ、ラーメン、ピザ、うどん、パスタなど色々と食べてみることが大切だと思います。サラダにしても違った野菜や肉と一緒に美味しく食べるために、ドレッシングという仲人を連れてきます。それも色々と組合せを変えてみることで新しい発見が生まれます。

● コーヒーとコーラと炭酸入り水に対して味噌汁とお茶と漬物
 パンにはやはりコーヒーが合います。ケーキには紅茶の方がよく合います。近年ドイツでは、コーラがとても多く飲まれるようになっています。コーラは甘いのでパンやお菓子には合いますが、ご飯には合いません。パンにはバターやチーズ、ジャム、はちみつ、チョコレートのペースト、ハムやベーコンなどをパンに載せたり挟んだりします。
 ヨーロッパに行って発見したのは、炭酸入りの水です。炭酸の強さは三段階あり、強い、普通、弱いという表現に合わせて、キャップの色が違います。でもこれは各国にとって様々なので、確認が必要になります。でも炭酸水もご飯には合いません。
 ご飯には、やはり味噌汁とお茶が合います。さらに漬物です。おにぎりには、漬物、焼き魚、梅干し、海苔などで包み込みます。挟むやり方ではなく、包むやり方です。主食が違うと、それに合わせる副食材も食文化の違いがあり、それぞれを組合せた新しい味を発見したいものです。