先回、皆が「褒めること」は大切だというけれども、実際にはあまり実行されていないようだと書きました。その後、改めて周りに注意を向けると、街中でお母さんが、子供が泣いているのを知らんぷりしていたり、お客さまがたくさんいるコンビニで、先輩が新人らしい店員さんを叱っていたり、いろいろなところで人の育て方としてはどうかな…という場面を多く見かけました。残念ながら褒めている光景には出会いませんでした。会社に限らず一般的にも褒めるより無視したり叱ったりする方が多いのだと実感しました。褒めることは相当に難しいことなのかもしれません。
工場では品質や安全の状態を維持するためにパトロールが行われています。しかし最近では多くの会社が人手不足などで時間がタイトになっており、工場の全部は回らないで問題のありそうなところだけ見て回っているということもあると聞いています。いつも良いところは見なくても大丈夫ということですね。この例からも、良いところを見つけて伸ばすより、悪いところを探して正す方が多そうだと分かります。
しかしこの時間の節約のために、良い現場を見ずに通り過ぎるというのはもったいないと思います。なぜかというと、この真逆をやって大きな成果を出している会社があるからです。
A社の社長は経営者として業界内で非常に高い評価を得ておられます。立てた戦略を厳密に実行されるので、“スーパードライ”という影のあだ名もあるのだそうで、社員の皆様は社長をとても怖い方だと思っています。
A社のパトロールは工場全体を見て回るのですが、その見方が実に細かい。どう細かいかというと、社長を筆頭に皆さんが現場の苦労や努力を積極的に探して、その人たちに声をかけて回ります。そして次の日の朝礼では、社長が現場で見つけた隠れた苦労話などを披露して皆さんの不断の努力をほめちぎり感謝の念を示すのです。
もちろん、パトロール中に修正するべき問題は見つかりますが、それは個別に対応してもらい、特に朝礼の中で大きく取り上げられることはありません。しかしそれにしっかりと対応がされると、今度は頑張って良くしたことを朝礼で褒められます。
A社では社長を筆頭に役員の皆さんが従業員を褒めるためのネタ探しでパトロールをしているようです。褒められた人たちは怖いと思っていた社長から自分が本当に努力してやったことを褒められるので心底嬉しいし、次に褒められるために何をするかを考え始めてくださるようです。その結果、カイゼン活動も非常に活発で大きな成果を出しておられます。いつ行っても良いところでは、それを自分の目で確認して、「今回も良い状態を維持してくれてありがとう!」とみんなにその良さを説明して褒めてあげて、他の部門もそうなるように動機付けをするのです。
マイナスのところを探すパトロールだけでは不十分です。目指すゴールはすべての職場が毎回褒められるようになることです。その実現のためにはマイナスポイントを探すだけではなくプラスポイントを見つけて広げることも大切です。悪いところを指摘して叱るということはマイナスの状態を元の状態に戻す指示ですが、褒めるということは今の状態をもっと良いレベルに引き上げたいという意思表示だからです。
言葉の使い方の工夫も大切です。同じことを言っても褒めたと思ってもらえるか逆に叱られたと思うかといった、きわどいポイントがあります。同じことを言っている二人の上司を比較します。
ほめる上司
• 一人で大変でしたね、次の時は手伝うから声をかけてね。
• ようやく完成しましたか、よくできましたね。
• 次はここを改善すれば完成ですね。
ほめない上司
• 一人でやろうとするから遅くなるんだ。
• 今頃できるなんて、遅いよ。
• まだここができてないじゃないか。
いかがでしょうか。日本人である私達には簡単ではないことも多いかと思いますが、頑張って多くの人を褒めてあげましょう!そしてカイゼンの実行力を更に強固なものにしていきましょう!