モノづくりの現場探求 第九回

人の育て方 ~人はほめて育てる!はできてますか?~

先回はシステム導入の際にカイゼンがしっかりとできていることが大切であることをお伝えしました。今回はそのカイゼンがしっかりできる人をどう育てていくかについてお話しいたします。

以前に工場長クラスを対象にした講演会の場で、出席者の皆さんに「人は褒めて育てるべきか?あるいは叱って育てるべきか?」という質問をして、挙手で答えを求めたことがありました。その場には10数人がいらっしゃいましたが全員が「褒めて育てるべき」との答でした。この質問は別の機会でもしていたのですが、どの時も大半の方が、「叱って育てる」のではなく「ほめて育てるべき」とお答えになりました。

その後、その講演会に参加しておられた工場長の工場での指導会で、彼の部下に現場で会ったので、「あなたの上司の工場長は、先日の講演会で人は褒めて育てるべきだとおっしゃったけど、あなたはしっかり褒められていますか?」と聞いてみました。すると彼は首を振って、褒められるどころかいつも叱られてばかりですと答えたのでした。

残念なことですが、これは例外的な話ではありません。すなわち多くの人が褒めることは大切だと思ってはいるけれど、できていないのです。それだけでなく、その反対の叱ることはしばしばやっていること、あるいは怒ってしまいついには怒鳴りつけてしまうといったこともあるようです。しかしこれは大問題です。人を育てることは現在の重要な課題であるにもかかわらず、その第一歩からつまずいていることと、場合によってはパワハラになるからです。

しかし私にはこうなる理由も分かります。

例えば生産遅れ、品質不良、設備不具合といった問題はすぐに工場長に伝わります。叱りたくなるネタは求めなくても自動的に来るのです。一方褒めるネタは工場長のところにはなかなか来ません、自ら求めないと来ないのです。

そして最近は多くの管理者や監督者は自分の職務の達成に追われており、現場の人たちと会話をする時間が減っています。元々作業の現場は仕事中に会話を交わし難い環境ですので、その結果、部下の仕事ぶりを見て褒めてあげることが更に難しくなっています。

また現在のマネージャークラスの年代の人たちは、若いころにあまり褒められた経験がないかもしれません。私自身も良いところをほめられるよりはダメなところを指摘されて育ってきた記憶があります。そういう人たちが褒めて育てろと言われても、経験がないので、実行しているつもりでもできていないということはあると思います。私も人をほめて育てているつもりですが、まだまだ不十分という自覚があります。

褒めることくらい誰もができていると答えていましたが、日本人には「言うは易し、行うは難し」の典型的な行動だと思います。ほとんどの人がその大切さを分かっているにもかかわらずできない、といった時にどうやったらできるようになるでしょうか?

私はまずは簡単なことから始めるのがいいと思います。例えば管理・監督者が現場で働いた皆さんの退社時に意識的に「お疲れ様、今日もありがとう!」と全員に声かけするといったことです。褒めるということは必ずしもテクニックだけの話ではありません、この人に褒めてもらいたいといった普段からの心の交流や信頼関係が大切だと思うからです。

そしてその様子を社長が見て、次は社長が工場長をほめてあげることも必要かもしれません。工場長が褒めることの大切さと褒められることの嬉しさの両方を知ることで更に理解が進み実行されるからです。

人材育成はこれからの経営における大きなテーマです。皆で大いに勉強して更にできるようになりましょう。次回もこのテーマを取り上げます。