モノづくりの現場探求 第八回

システム導入とカイゼンの関係 ~システム導入は消費?投資?浪費?~

デジタル化を進める中で、システムを導入するかどうかの判断をする機会が増えると思います。その時に、「まずは導入ありき」で話を進めると大きな失敗をすることがあります。今回は私が経験した事例を用いて、システム導入とカイゼンの関係のお話しを致します。

最近は、中国のゼロコロナ政策による都市封鎖や、ロシアのウクライナ侵攻によるサプライチェーンの断絶が問題になっています。これまで進歩し続けてきたサプライチェーンですが、ここにきて新たな問題の存在が顕在化してきました。

私はこのサプライチェーンという言葉には忘れられない思い出があります。SCM(サプライチェーンマネジメント)という言葉が出始めた頃、ある学会の主催で外資系システム会社のシステムエンジニアとモノづくりの現場の人とのあいだでSCMについてのパネルディスカッションが開かれ、私は現場側のパネラーとして参加しておりました。

有名な外資系のシステムエンジニアによるSCMについての説明からディスカッションが始まりました。彼らはSCMシステムを使うと在庫削減やリードタイム短縮といった大きな成果が出るということを流暢に説明しました。しかしその説明は日本語ではありましたが、英語の専門用語が多く非常に分かりにくいものでした。私は耳慣れない用語の意味を考えながらそのプレゼンテーションを集中して聴いたのですが、理屈は通っているが実行は難しい部分も多くあり、横文字が多いことによる威圧感の割には内容がないと思いました。そして統制の取れた現場でないとこのシステムは使えない(理解できない)ということを隠しているのではないかとも思いました。もしかすると、いつもこんな話し方で、現場の人たちを煙に巻いているのではないかと少し疑いを持ったことも事実です。

そうしているうちに、そのシステムを導入して成果を上げた会社のリストが提示されました。よく見るとその中に、私達の指導先がありました。その会社は、以前は整理整頓などができていなかったため生産管理が機能せず、せっかくシステムを入れたのに成果が出せず困っていました。しかし改めてカイゼン活動を始め、整理整頓や工程の連結を進めてモノづくりをシンプルにした結果、生産の流れが良くなりシステムが使えるようになり大きな成果を出すことができた会社でした。そしてその時に成果を出せなかったシステムがこのSCMであったのです。

これはプログラム導入とカイゼンとの関係を分かり易く示していると思います。先回、お金の使い方として、消費、投資、浪費を取り上げましたが、システムの導入はもちろん投資です。しかしカイゼンを伴わないと浪費になる可能性があるという事例です。

これからの時代、デジタル化などでシステムの導入判断の機会が増えると思いますが、整理整頓などの基本ができていない現場にはどんなに優れたシステムを入れてもうまく機能しません。この例で分かるようにシステムの導入にはカイゼンの基本ができていることが前提になるということです。改めてカイゼン活動に力を注いで参りましょう!ご意見、ご質問をお待ちしております。