モノづくりの現場探求 第四回

適正在庫について 4 ~まとめ買い、ホントに安いのか?~

緊急事態で早め多めにモノを買うことにした結果、場所が足りなくなります。そこで先の2回はまず場所を獲得するためのカイゼンについてお話をしました。

今回は、買ってしまった在庫品への対応について考えてみたいと思います。食品であればほとんどの材料がカビたり腐ったりするので、対策は既にかなり取られています。しかし材料が金属や樹脂であるとすぐには劣化しないので、保存方法にあまり気が配られておらず、倉庫の担当者が仕事の都合で判断しているという現場も多いと思います。しかし現在はその規模が大きく、長い保存期間が大規模な品質の劣化などに結びつく可能性があり、改めてその対策を考える必要があります。一般的にはまとめて買うと安くなるという思い込みがありますが、本当に安くなるためにはその背景に今回のテーマのような努力が必要です。

例えば錆びるものには当然ですが防錆対策が必要です。溶接加工をしているA社で倉庫のカイゼンをしていた時のことです。モノの買い方と作り方を変えるなどして順調に場所を空けてきたのですが、過去につくり過ぎた完成品在庫を減らす段階で苦労しました。随分前の完成品で表面に錆が浮き始めていたので、出荷するには錆取りをして再度検査する必要がありました。追加の錆取りと再検査が間に合わず、せっかく在庫があるのにわざわざ生産をして出荷していました。追加作業はとても面倒で、新たに生産をするのと変わらないくらいのコストになりました。もったいないことをしました。

A社の場合、防錆油は一応塗られていたのですが、塗り方が雑で効果が不十分でした。絶対に錆びてはいけない部分にだけでも正しく塗布していれば何とかなった可能性がありますが、残念なことにそのような形跡がなく、使えない状態になってしまいました。倉庫担当が自分たちだけでやったので、製品や防錆油についての詳しい知識や経験がない上に、人手が足りず不十分なやり方になったためです。これまではモノを作ることには注目していましたが、保管することには十分な注意が払われていなかったということでした。

このA社の事例は完成品ですが、材料でも同じことです。これからの対応は、技術、管理、調達、営業部門などにも入ってもらい、多めに買った材料が最後まで手間をかけずに使い切れるようにしたいものです。まず品種ごとに、時間が経つとどのような変化が起き得るのかなどを書き出しましょう。金属であれば、錆以外にも、傷、汚れ、変形、割れ、変質、磁化などいろいろな変化が起きそうですが、それぞれに対応する方法を議論します。そして一部門だけで実行すると工数不足で雑な仕事になってしまいがちなので、全社で工数を捻出し一気に作業を完結してしまうことがいいでしょう。一人、あるいは一つの部門では一生かかってもできないことが、みんなが集まって一気にやればわずか2時間ででき、かつその後はずっと効果が出続けるということはしばしばあるのです。

これらの対応は全てコストがかかります。当初の予算に入れておかなければ、突然膨大なコストが発生することになります。しかし、今回の材料在庫の買い方についての大きな変化は、これまでの対応に警鐘を鳴らすものです。これからのやり方は全社の人が集まって、全体最適の連携をとって実行するアプローチがいいと思います。