0.5ミリの製品は、10本作ったうちの2本が良品で残りの8本不良品でした。そこで良品と不良品が生まれる原因はどこにあると思いますか?と聞くと、溶接工程がうまくいかないとのことでした。ではどういう溶接ができればいいのですか?と再び尋ねると答は明確で、より電力の低い溶接機があればうまく行く可能性があるとのことでした。電力が低いのであれば安いのだろうと思ったのですが、逆で、かなり高価な設備になるということでした。しかしそこにいたH社長が遠慮しないで一台買いなさいと言って下さったので、Jさんは挑戦することを決意しました。製造現場にはありがちなことですが、気づきがあった場合でも口にすることで自分が責任を負わなければならないことを恐れて発言を控えてしまうことがあります。G社製造部においても、自分たちの希望で高額な設備を買ってほしいと言えない雰囲気がありました。
そして次回、工場に伺うと、ニコニコしたJさんが0.5ミリのセンサーを10本並べて見せてくださいました。ついにできたのです!こちらまで嬉しくなるような出来事で私も一緒に喜びました。次にJさんに0.5ミリのセンサーを製品化できるレベルで量産体制を整えていただくように指示しました。数ヶ月後に会った際には彼はそれも実現してくれていました。さらに彼は次の私の宿題を予想して、0.3ミリのセンサーにチャレンジしていました。結果は前回と同じく、10本中2本の成功でした。そして次にほしいものは高精度の顕微鏡であるという要望をしてくれました。
毎回、新しい進歩を見せてくれるJさんに対して周囲の期待は高まっており、挑戦に対するモチベーションが上がっていることが分かりました。そして高精度の顕微鏡は社内の別の部署にあることが分かり、工場長がその場で借りて来てくれました。いろいろな部門の代表が集まってワイガヤが始まりこれまでにないアイデアが出て来ていました。Jさんもとても頑張ってくれて、高精度の顕微鏡を使って、ついに0.3ミリの製品を生産することができるようになりました。この製品はI社のものよりバラツキが少なく高品質であると評判を取りました。今回のセンサーの制作にI社も協力的であったため、この結果はI社にも情報共有され、2社でより高精度の0.3ミリ製品を作ることになり生産能力が上がり、売り上げを大きく上げることになりました。
1.0ミリの製品を作るのが精いっぱいというところで諦めてしまっていた現場で、失敗を承知でやってみたことによって答えが出たのです。失敗しないようにしようではなく、失敗してみよう!と言ってチャレンジしたことがポイントです。「失敗は成功の母」という言葉は本当です。失敗するような難しいチャレンジでなければ成功しても大した成果は望めません。そうだとすれば、失敗してみることです!
低電力溶接機も高性能顕微鏡も失敗をすることで出て来たカイゼンです。これまでは挑戦する前にきっと無理だろうと諦めていた感がありましたが、皆で現場に集まってワイガヤをすることで、いろいろなアイデアが生まれ、その場で協力体制が組まれるようになり、以前とは違う、皆で進歩向上するカイゼンができるようになりました。
結論として、製造業における革新は、単に新しい技術の導入だけではなく、チームワーク、持続的なカイゼンの実行、そして失敗を恐れずに新たな挑戦を続ける意欲からも生まれます。G社の例は、カイゼン活動が新製品開発にも生かされる実例となりました。