2023年11月20日号の日経ビジネスに、「日本製鉄・JFE、アルミの弱点突く技術磨く 自動車のギガキャスト返り討ち」と題して、自動車のプラットフォームの製造法に関する記事が載りました。テスラが開発したアルミ・鋳造一体成型という新技術に対抗して、日本製鉄・JFEが鉄板・プレス一体成型という新技術を開発中という内容です。
これまで、自動車のプラットフォームは、50個以上のプレス部品を溶接するという複雑な工程で作られていました。しかし、テスラはギガキャストというアルミ鋳造法でプラットフォームを一体成型するという革新的な技術を開発し実用化しました。この工法の登場により、プラットフォームには鉄板が不要になる可能性が議論されました。この記事はそれに対抗する形で、日本の製鉄会社が部位ごとに違う各種鉄板材料を事前に組み合わせた鉄板を使って、プレスで一体成形するこれも革新的な方法を発表したということです。
私はこの技術競争を知り、大いにワクワクしました。ライバルが新技術を発表したら即座に自分の得意な技術を使ったアイデアで応戦するとは何とも素晴らしいカイゼンです!このような事例はモノづくりにおける新たな技術革新を期待させます。
もう1つ、最近のカイゼン会で起きた事例をご紹介いたします。樹脂成形のA社で技術部が新製品の価格見積もりをした際に、使用する設備の選択を間違えて、能力不足な小型の設備を使った見積もりをしてしまいました。結果として提示した価格は安くなったので受注できましたが、実際には本来の大型の設備が必要であるため、その価格では赤字になるということになりました。技術部は自分たちの間違いの責任を感じ、間違って見積もりに使ってしまった小型の設備で生産できる金型を作るカイゼンをする決意をしました。
開発は難航しましたが、そこから生まれた危機感が強い連帯感を生みました。本社および全工場の技術者が持つノウハウを持ち寄り、小型化の可能性を追求した結果、当初は間違って選択した小型の成型機で製品が作れるようになったのです。
A社の技術部は、何とかピンチを乗り切ったのですが、実はここにチャンスがあったのです。そこでカイゼンを終わらせず、成功した要因を分析し、これまでの常識的な型構造の中に新たなカイゼンを織り込み、一般的な製品に応用できる技術として標準化しました。その結果、以降の新製品の生産をひとランク小さい設備で行えるようになり、大幅に生産能力を上げコストを下げるという結果を出しました。またそれまで属人的であった技術ノウハウを見える化して共有財産として使えるようにすることもできました。
以前のコラムで、コロナにより困難な状況が生まれた時、皆で知恵を出してカイゼンを実行して、コロナ前よりも良い状況を生み出した事例をお話ししました。これは素晴らしいことなのですが、一方で、もし追い詰められないとカイゼンができないというのではカイゼンの本来の姿とはいえません。問題がない時であっても、困難な時と同様にカイゼンは行われるべきです。そう考えると日本製鉄・JFEの事例はあるべきカイゼンの姿だと思えるのです。
カイゼンは単に問題解決のためだけではなく、革新的な発想を生み出し、競争優位を築くための重要な戦略ツールであるということです。アルミ一括鋳造と鉄板一括プレスの技術競争は、自動車業界における製造方法の大きな変化を示しています。A社のカイゼン事例は、誤りから学び、さらにその学びを新たな機会へと変える重要性を示しています。つまり、カイゼンは危機の時はもちろんですが、平穏な時でも積極的に取り組むべきプロセスであり、真のイノベーションへの道を切り開くものだということです。