脱力・カイゼントーク 第20回

老眼で目が見えていなかった!

縫製業を営むA社のカイゼン会で、若手リーダーのKさんが深刻な顔で相談に乗ってほしいと私に話しかけてきました。話を聞くと、ベテランで腕が立つDさんの仕事の出来映えが最近とても悪くなっているのだそうです。KさんはDさんの目が遠くなって細かい点が見づらくなっていると考え、老眼鏡の着用を勧めたいと思っていますが、Dさんの気持ちを損ねるかもしれないと悩んでいました。

私は早速、自分の考えをお伝えしました。私は今72歳で、まだ健康に恵まれ働き続けていますが、残念ながら昔のような体力はなく、またDさん同様老眼なので近くのモノを見るためには老眼鏡が必要です。若いころに普通にできたことが今はできなくなっている点を自分でも気にしており、Dさんがどういう状況にいるのかが分かる気がしたからです。

その後、私も同席して、KさんとDさんとで話し合いをしました。KさんはこれまでのDさんの丁寧で正確な仕事ぶりを高く評価し、その上でDさんに礼儀正しく老眼鏡を使うことを提案しました。その結果、DさんはKさんの提案を受け入れ、老眼鏡をかけて仕事をすることになりました。実はDさんは既に老眼鏡を持っていて、それをかけて仕事をし始めると、すぐに以前のような仕事ができるようになりました。Dさんは「もう少し早く老眼鏡をかければよかったのですが、老眼と言われるのが嫌で、かけずにいたのです。これからは困った時は自分から言いますね」と話して下さいました。

高齢者は怒りやすいといった記事を読んだことがありますが、実は私にも覚えがあります。私自身が老眼鏡を使い始めた時、若い人が軽い気持ちで私に「柿内さんは老眼なんですね」と言っただけなのですが、私はもう仕事はできないと言われたような気がして、怒ってしまった時がありました。まだ十分に仕事ができると思っている高齢者にとって、年齢や衰えた部分を指摘されることは、とても受け入れがたいと感じることがあるのです。私は若いKさんがベテランのDさんにこのような気遣いをして下さったのを、とてもありがたく思いました。

逆に、私のような高齢者も若い人たちとの接し方に気を使うことが大切です。例えば私が一瞬とはいえ怒ってしまったことは反省しています。相手に悪気はないことは明らかですので、もっと落ち着いて対応するべきでした。

多くの職場では既に、高齢者でも身体に負担を感じないで仕事ができるようなカイゼンが実行されています。例えば、作業台や椅子の高さを調整可能にしたり、軽量で使いやすい道具を提供したり、フレキシブルな勤務時間を設定するなどです。

これらの人間工学的、あるいは管理的なカイゼンに加えて、今回のようなお互いの気持ちに配慮するカイゼンというのもありかな…と思いました。私は今回の出来事を通じて、若手と高齢者との間での理解と配慮がいかに重要かに気付くことができました。高齢者と若い人の双方がお互いを理解し、支え合うような関係を築くことで、誰もが快適に仕事ができる職場環境をめざしましょう!