脱力・カイゼントーク 第16回

「思い込み」をなくすことの大切さ

私は最近、頻繁にZoomを使っています。これは、遠くにいる人と3人以上でも顔を見ながらコミュニケーションできる今ではなくてはならないツールです。しかし、この便利なツールを普通に使うようになったのはごく最近で、新型コロナウイルスの緊急事態宣言により外出が制限され、仕事で使わざるを得ない状況に追い込まれてからのことです。もしコロナが存在しなかったらば、これほど便利なものでも未だに広まっていなかった可能性が高いと思います。実際、コロナ以前にもZoomは存在していましたが、日本で広く使われることはありませんでした。

もし私がコロナの前にZoomに出会ったとしたら、「画面越しでは十分なコミュニケーションが取れない」とか、「電話とメールがあるので特に問題がない」とかの理由を付けて、わざわざ使わなくてもいいのではないかと考えたかもしれません。

現在、Zoomは広く一般的に使用されており、もし使えなくなったなら多くの人が多大な不便を感じるでしょう。コロナ以前にその価値が理解されなかったのは、私がそうであったように、「そこまでしなくても大丈夫」とか、「始めるのが難しそう」とかといった思い込みが影響していたと思います。

このような思い込みは大きな機会損失を招くことがあります。そして、私たちの日常生活には多くの思い込みが存在しているのではないでしょうか。

最近私が気付いた自分の思い込みをご紹介します。若い人たちとの集まりで割り勘をすることになりました。私は小銭が足りなくて困っていましたが、他の人はみんなスマホを使って幹事に簡単に支払いを済ませていました。私が戸惑っていると、幹事がスマホを使った送金法を教えてくれました。試してみると、とても簡単にできました。身の回りにこんな便利な方法があるにもかかわらず、使っていなかった理由は、私の思い込みからくるものであることに気付きました。

私の思い込みは、現金は払ってお釣りをもらうだけなので簡単だが、スマホだと最初の設定や操作が煩雑で却って手間がかかると考えていたことです。ところが全体の流れを見ると、いくら私が楽であっても、幹事の人はお釣りを用意し、払い忘れや計算間違いがないように注意し、最後に集めた現金をお店に払うというとても大変な仕事をする必要があります。スマホを使った支払ではそのような煩雑なことは一切ありません。全体の流れを見ればデジタルのスマホ払いの方がずっと安全で効率的です。私の思い込みは全体の流れを見落としていたことによるものです。ここから自分が行う作業だけを見るのではなく、全体の流れを考慮することの大切さを学びました。

この経験から、生産現場のデジタル化においても同様の思い込みが存在することに気付きました。例えば紙の日報からデジタル日報への移行です。紙にペンで文字を記入する作業はシンプルで皆さん慣れておられます。設定も器機の立ち上げも不要で、書くことだけを考えると紙の日報の方がデジタル日報より速くて楽だともいえます。しかし、工程全体を考えると本当に楽でしょうか?紙はその後、誰かの手による情報の入力や計算があり工数も時間もかかります。また古いデータが必要になった場合、紙の資料を探すのはとても大変ですし、保管の場所の確保も重荷です。一方デジタルであれば作業はすべてコンピュ-ターが自動で行い、更に記録を電子ファイルに残すので、紙で起きるほとんどの問題が解決されます。トータルではデジタルを使った方が圧倒的に効率が高く、全員が楽になるのです。日本の製造業のデジタル化の遅れが問題視されていますが、今のままでも何とかなっているという思い込みがその原因の一つであるかもしれません。

そうであるとすると、私たちはこのような進歩を妨げる思い込みを排除し、さらなるカイゼンを追求すべきです。思い込みによってせっかくの機会を無駄にしないために、柔軟性を持ち、新たな視点で物事を見つめていきましょう!