脱力・カイゼントーク 第11回

先日、電車の中で新聞を読もうとしたのですが、混んでいて広げられないので諦めました。周りを見渡すと新聞を読んでいる人は誰もおらず、スマートフォンを使っている人ばかりでした。私が読めなかった新聞をスマートフォンで読んでいた人もいたかもしれません。スマートフォンで新聞を読む利点は、広げずに読めることだけでなく、過去の記事も読めたり関連の情報がその場で見られたりなどたくさんあります。しかし私は家では紙の新聞を広げてザっと見て、気になる記事を選んで読むのが好きです。スマートフォンで新聞を読むとまずタイトルしか画面に出ないので読みたい記事にたどり着くにはもう数クリックが必要で、1動作で「チョイ読み」ができないので私には紙の新聞の方が便利に思えます。これをデジタルネイティブ世代の若い人に話したところ、元々新聞を読んでいない彼には理解できないという顔をされ、逆に古いニュースしか載っていない新聞をなぜ読むのですか?とドキッとする質問をされました。私が今でも新聞を読んでいるのはもしかすると単なる習慣かもしれないな…と思い始めました。

最近のお金についても考えてみました。PayPayでの支払いはお釣りのやり取りがないのでとても便利で、その上ポイントも付きます。そして機能の1つに「送る」というものがあり送金もできます。しかし私は例えば孫にお年玉を上げるとすると、PayPayで送るよりお金の入ったお年玉袋を直接渡したいのです。その方が、より喜ぶ顔が見られると思うからです。このことを同世代の友人に言ったところ、「お孫さんからしたら、そんなことよりもPayPayで元旦にもらう方が嬉しいかもしれないよ」と言われました。私はなるべく元旦に会いたいなあ...と少し複雑な気持ちになりました。

日常生活での最近のデジタル化について私が考えたり議論したりしたことを述べましたが、人それぞれの立場や世代などの違いによってとらえ方が違うのは当たり前だと思います。デジタル化のカイゼンにおいては、このような多様性のある意見に耳を傾けることが大切だと思います。

A社では、製品の出荷日管理をコンピュータで行っていますが、直近の2週間で生産順序を変更・調整する際には、紙の生産指示書を使った大きな差立板を使っています。理由は大きな差立板は一覧性が高く、前後工程から複数の人が集まって変更・調整をするには、全体が一目で見え、かつ物理的に紙の位置(生産タイミング)を見ながら変えることで全体最適の判断が容易になるからです。各人が自分のタブレットを見ていると、皆がどこを見ているのかが分からないことがありますが、大きな1つの差立板であれば、全員が同じところを見ているので意見が出易いこともあります。一方、一同がその場に集まれないような会議では記録が残るデジタルが適しています。仕事によってアナログとデジタルの利点が異なります。

また別の事例になりますが、B社では、現場で使う図面にデジタルのタブレットとアナログの紙の両方を使っています。現場で図面を見るのにはタブレットが便利ですが、全体を把握するには大きな紙の図面が分かり易いからです。どちらか片方より、両方が明らかに使い易いそうです。

A社とB社の事例をご紹介しましたが、会社によってデジタル化導入の判断に違いがあって良いと思います。これが正しいという答があるわけではなく、会社によって適した方法は異なります。会社ごとに人も業種も作業内容もすべて違うのですから、その時々に最適なデジタルとアナログの使い方はそれぞれあると考えていいと思います。柿内流はマニュアル通りのデジタル化は採用しません。もちろんすべてこれまでと同じアナログであり続けるというのは間違いであり、変化していくことは必要です。両方を自分たちの仕事に合わせてバランスを取ることが必要です。