新しいモノづくりの考え方 第18回

これからの日本式デジタル化⑰

今回は「ムダ取り」についてこれまでのアナログのカイゼンにデジタルの力を導入すると、どうパワーアップするかを考えてみました。結論を先に述べると、デジタル化によってムダ取りは格段にパワーアップします。理由はアナログでは限界であった多くのことがデジタルによって可能になるからです。

トヨタ生産システムの7つのムダは
1.つくり過ぎのムダ
2.手待ちのムダ
3.運搬のムダ
4.加工そのもののムダ
5.在庫のムダ
6.動作のムダ
7.不良を作るムダ

上記7つになります。

1.つくり過ぎのムダ 「つくり過ぎのムダ」は、生産スケジュールに対して多過ぎる、あるいは早過ぎる生産をした結果生じるムダ、あるいは生産スケジュールそのものが多過ぎや早過ぎの生産を求めてしまうことによるムダなので、つくり過ぎが分かるのは、生産管理スタッフが現場に行って確認するか、翌日に日報で生産の結果を見て分かるということが多くありました。作業者自身も自分がつくり過ぎをしていても分からないことが多く、つくり過ぎをしている瞬間を見ることは難しかったのです。しかしデジタル化してリアルタイムに現在の生産進捗状況や在庫状況が分かるようにすると、つくり過ぎや逆に生産遅れの発生の都度対応できるようになります。また「つくり過ぎのムダ」が発生した時の状況も分かるのでつくり過ぎを止める根本対策が打ちやすくなります。

2.手待ちのムダ 「つくり過ぎのムダ」がリアルタイムに分かるようになると、つくり過ぎを止められるので、生産を止められた職場には手待ちが発生します。その手待ちになった人が生産遅れの発生している部門へ応援に行けるようになれば「手待ちのムダ」が有効に活用できるようになります。

部門間の情報伝達は、いったん部門ごとで集計されてその後まとめて送られることが多いと思います。例えば各営業担当者がその日に取った注文は、日報にまとめられて翌日に材料調達や生産計画部門に送られるので、生産準備に着手できるタイミングは翌日以降になります。ところがデジタル化されるとすべての個々の注文情報が瞬時に関係する部門と共有化されることが可能なので、それぞれの部門は遅れることなく生産に向けての準備を開始することができます。この部門ごとに発生する「手待ちのムダ」はこれまでは解決できませんでしたが、デジタル化で解消されます。

3.運搬のムダ 世界中で物流の問題が顕在化している現在、改めて「運搬のムダ」への取り組みが大切になっています。これまで工場内の作業中での運搬のように一定の場所で行われる生産現場での「運搬のムダ」はカイゼンされてきましたが、トラック配送などの工場外の物流現場ではデータ収集が難しく、待ち時間や運搬効率の数値化が遅れ、その結果、これまで効果が大きいといわれている割にカイゼンが後回しになって来ていた分野といえます。しかしデジタル化でこの管理面でのカイゼンを進めることができるようになります。この分野での「運搬のムダ」に改めて注目し、これまでの遅れを一気に取り戻して生産性を向上させて人手不足などによる物流の問題を解決しましょう。

また工場内の「運搬のムダ」ではデジタル化の進歩で、これまで地面の表面に貼った物理的な接点を使って運用していた無人搬送車などがウェブの活用で工場内を自在に動けるようになりました。これまでは単純な2点間の移動のみであったのが、ルート設定が自在になり運搬後の載せ降ろしも自動化できるようになるので、物流部門だけでなく生産部門の生産性向上にも貢献できるようになります。

情報面においても「運搬のムダ」がありました。本来、注文情報や生産計画情報あるいは図面情報などは質量の無い情報ですが、紙媒体を使うと運搬する必要があります。運搬と停滞を繰り返す都度、工数がかかり時間が遅れますが、デジタルだとそれらが解消されます。アナログの時代の情報は運搬するものでありましたが、デジタルの時代では瞬時に共有化されるので運搬という工程がなくなります。あまりに日常的で見逃されていましたが、情報を紙媒体によって運ぶのは「運搬のムダ」といえると思います。

残りの4つのムダは次回にお話しします。