1月のご挨拶

元旦の日本経済新聞の一面には「昭和99年 ニッポン反転」というタイトルの記事が掲載されました。過去の成功体験にとらわれず、長年にわたる経済の停滞から脱却するべきという挑戦的な内容です。その基盤となるのは、物価と賃金の上昇による経済のインフレ化と、働く人々のモチベーションの向上となっています。

これまでは、原資不足を理由に賃上げが抑えられ、正規従業員の数が減少し、人材育成への投資が縮小しました。一部の調査では、愛社精神に関連するエンゲージメント指数が先進国中で最低であると指摘されています。しかし、労働力不足が進む中で、賃上げが不可欠となり、大手製造業ではバブル崩壊後においては例を見ない高い賃上げの実施が発表されています。賃上げによって従業員の可処分所得が増加し、仕事へのモチベーションが向上し、生産性向上のカイゼンが実現すれば企業経営が上向く好循環が期待されます。

しかし、私の実感では、B to Cの取引をしている大手メーカーは昨今の価格高騰を理由にお客様に一定の理解を得たことで価格に転嫁し、利益を上げて賃上げが可能になっていますが、中小製造業では賃上げは依然として大きな負担だと考えています。B to C業態ならばまだしも、B to Bの場合、親会社との価格交渉では、原材料やエネルギー費用のアップ分は反映されても、賃上げのための原資までは認められていないようです。そして、これ以上の要求は中小製造業にとって難しいのが現状です。

人材確保はこれからの変化に対応するために必須であり、賃金の引き上げは避けられない状況です。そのための原資の確保ですが、冒頭で述べたように、過去の成功体験にとらわれず、全ての慣習を見直し、時代に適した対応を模索することが重要です。ここで考えたいのは、何でもかんでも値上げしようということではなく、生産性のない土地の有効活用や、本来請求すべき内容を請求していなかった点などをもう一度見直してみようということです。例えば、本来請求すべきコストを無償で提供している場合や、適切に管理すべき項目をおろそかにしている場合などです。

インキメーカーのA社は、顧客の多様な色の調合要求に迅速に応えることで評判を得てきましたが、そこで発生するコストを売価に反映させていませんでした。小ロットの特注品に対しては、かかるコストに見合った価格設定をせずに一般価格で販売していました。都度、生産ラインの停止や段取り替え、運搬などの大きなコストが発生していましたが、これらをサービスとして提供していたのです。それを知った社長はコストと売価の関係に大きな問題を見出し、特急料金や小ロットサイズ料金、新色調合に対する設計料金などを新たに設定しました。営業担当者は注文減少を懸念しましたが、社長の狙い通り、特急や小ロットの注文はほぼなくなり正常化し、利益に貢献しました。

樹脂成型メーカーのB社は、自社が保有する金型以外に、生産依頼主が所有する金型を多く保管していたため、自社の倉庫だけでは足りず外部倉庫を借りていました。管理する金型を調べたところ、1年以上注文がない金型が30%以上あることを発見し、それらの金型の引き取りや廃棄の依頼、あるいは保管を継続する場合の管理費の請求を開始しました。これにより、不使用金型が整理され総金型数が減少し賃貸倉庫を返却することができました。その上運搬距離の短縮などのカイゼンが進み管理費用を大幅に削減しました。

これまで、下請けの立場にいる多くの中小製造業は親会社に対する立場が弱く、細かい原価計算に基づいた請求をしないまま現在に至っていることも多いようです。しかし、注文が拡大するときであればともかく、減少する時代ではこのような管理では経営が成立しないことは明らかです。この時期に改めて原価計算を正確に行い、従来の慣習を改める必要があります。

時間、土地、金型など、私たちの身の回りにはまだ付加価値を生み出せるものが多くあります。この機会に、事例にあるようにまずトップがこれらの要素を抽出して、その上でそれらについて皆で議論してみませんか。自分たちで賃上げの原資を発掘して賃上げを実現し、元気が出る生産的な1年にいたしましょう!


日本カイゼンプロジェクト
会長 柿内幸夫