プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第99回 番外編

番外編(5) プロジェクトをうまくさばく

前回は番外編(4)として、こなす技術とさばく技術について解説しました。こなす(熟す)は、多くの仕事をどんどんこなす、どんな仕事でもうまくこなすなどと使います。さばく(捌く)は、こなすと同じ意味でも使います。仕事を次からつぎへとさばく、などです。しかし、こなすよりも「解きほぐす」ほうに力点があるときに使うことが多いようです。例えば、あの人はさばけていると言えば、仕事をどんどんやってしまうことよりも世情に通じていて物分りが良いというときに使います。プロジェクトの場合は、こなすよりもさばくほうに使われる機会が多い感じがします。
今回は、プロジェクトをうまくさばくことについて述べることにします。

【1】プロジェクトの特徴 さばくことが重要になる
よく知られているようにプロジェクトは通常の業務ではない特別な業務に対応するために活用される仕事の進め方のひとつです。通常では無い仕事でも、これからずっと継続するようであれば新たな組織をつくることになります。
コロナ禍に対応するために官民を問わず新たな仕事が増えています。これらは期間が限定できないので組織としてはプロジェクトではなくタスクフォースといった呼び方がされています。これとは異なり、新たな組織のかわりに臨時の組織(チーム)により期間限定で対応するのがプロジェクトのやり方です。従って、対応するメンバーも通常業務を掛け持ちしながらプロジェクトの仕事をこなすことになります。まとめると、プロジェクトの特徴は次のような三つの要素になります。

 ・目的 特別な目的のための成果物をつくり上げる
 ・期間 期間が決まっている(納期が指定されている)
 ・資源 対応するメンバーや予算などが決まっている

プロジェクトにはこのような特徴があります。そして、これらの三つの要素は互いに相反する関係にあります。例えば、成果物を変えずに期間を短縮しようとすればより多くの資源が必要になる、などの傾向があります。従って、仕事の進め方としてはこなすことよりもさばくことが重要になります。

【2】プロジェクトを開始するために
プロジェクトは何のためにやるか、その目的があります。目的だけではわかりにくいので具体的に最終的に出来上がるモノを最終成果物という名称で呼んでいます。成果物としては有形のものばかりではなく、無形のものもあります。

例えば、依頼主である顧客企業から設計変更や仕様追加が五月雨式に出る、しかも納期や価格は当初決めたものから一切変更が無い。極端なケースですが言わば「不平等条約」です。これを改正するような案件をプロジェクトで取り組むことにするとしてみましょう。この場合の最終成果物は「改正された請負契約書」ということになります。
請負契約改正プロジェクトとしては、プロジェクトの構想段階として次のようなことを取り上げることになるでしょう。一例として次に列挙します。

 ・設計変更や仕様追加が五月雨式に発生することの悪しき影響
 ・顧客企業における発生原因や対策などの聞き取り調査結果
 ・自社としての業務改善に基づく合理的な対応案(推薦案)
 ・顧客企業との折衝プロセス想定案と成功基準(順位付き)設定

顧客企業との折衝ですから、必ずしもこちらの思い通りにはいきません。準備段階そのものにおいても折衝段階においても、つねにさばく(捌く)技術が欠かせません。ちなみに「捌く」と同音異議語で「裁く」があります。これは、次のように説明されています。

 裁く:良いか悪いかを判断して決める、理非を明らかにする

顧客企業との折衝では、裁く姿勢はもちださずに捌く姿勢が基本になります。つまり、契約改正に至った経緯を解きほぐすことが最も重要になります。このような案件のプロジェクトでは、つねに経営者が率先して取り組むことになります。その取り組みを通じてプロジェクトメンバーである従業員の皆さんも経営に対する関心を深めるという副次効果が期待できます。

【3】プロジェクトが終了したら
プロジェクトマネジメントでは、プロジェクトが終了したら得られた教訓をまとめます。もちろん「プロジェクト完了報告書」の作成が業務標準で定められていると思いますが、その中で「教訓」がとくに大事です。うまくいったことよりもまずかったことや失敗したと思うことがより重要です。

完了報告書の作成とあわせて、メンバーによる振返りのミーティングは必ず開催する必要があります。メンバー全員から、メモ程度でよいので教訓(学んだこと)を集めます。メンバー全員、それなりの感想はあるはずです。ミーティングで「あまり参加できなかった」という発言があるとします。そういうコメントに対して「いやいやそんなことはありません、あのときのアドバイスはとても助かりました」といった発言があるかもしれません。この発言も広い意味では「捌く」技術になるのでしょう。このようなやり取りが期待できることもプロジェクトの効用と言ってよいと思います。