プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第86回

社長、それではプロジェクトは失敗します。
 (その7)人が育たないプロジェクトはダメです。

前回は、プロジェクトの成果物をより円滑に組織に溶け込ませる工夫について述べました。その際、成功基準を使ってプロジェクトの難易度を事前に調整できることを説明しました。つまり、プロジェクトの難易度は計画時点である程度の範囲で設定できるわけです。登山のとき、初心者の場合いきなり頂上を目指すのでなく7号目にしておきましょう、といった感じです。
今回は、プロジェクトで人を育てる観点からいくつかのポイントを述べることにします。

【1】プロジェクトをどのように位置づけるか
筆者がプロジェクトマネジメント(以下、PMと略記)業界に参加したときは、米国式PMが主流でした。発注者である米国政府や各州が必要とするプロジェクトを請負企業がプロジェクトとしてどのように運営していくか、その枠組みがPMでした。米国は日本とは異なり、詳細な契約に基づく社会です。発注者と請負者をつなぐものは契約ですが、契約が全てをカバーできるわけではありません。そこで、仕事の進め方の枠組みを共有した上で契約する。その枠組みがPMということでした。米国のような契約社会ではないわが国にとって、とくに企業内のプロジェクト(社内プロジェクト)において不要なものが様ざまにあると感じました。

【2】社内プロジェクトの位置づけ
上述したように、社内プロジェクトはPMの教科書をそのとおりにやる必要はなく、企業のニーズに合わせて柔軟に計画することができます。プロジェクトの定義にあるように、何のためにやるのか(特別な目的)、どのくらいの時間をかけるのか(所要期間または納期)、必要な資源(主として人)など三つの要素はプロジェクトに限らずどのような活動にも必要な条件です。従って、どのようなことでも既存の組織で対応できることになりますが、プロジェクトにはそれなりの特長があります。社内プロジェクトを分類しながら、その特長を紹介します。

【3】社内プロジェクトの分類とそれぞれの特長
社内プロジェクトを日常的でない場合と基本は日常業務だが特別な目的がある場合という観点で分類すると次のようになります。

(1)日常的な業務でない場合
   ①定期的な催事や行事・・新入社員教育、会社創立記念式典など
   ②特別な催事や行事 ・・新しい拠点の開所式、新商品投入のキャンペーンなど
これらの場合プロジェクトで対応すると、経験したことをマニュアル化したり、ノウハウを残して組織の知的資産にすることができます。①の場合など仮にメンバーがそっくり入れ替わったとしても、次の機会にゼロスタートするよりもはるかに効率的に運営することができます。②の場合は、メンバーは変らないとしても、業務の基本は同じですから独自性を発揮することに時間をかけることができます。

(2)日常業務だが特別な目的がある場合
   ③部門間の連携が欠かせない場合
   ④特別な技術または製品開発が必要な場合
これらについては人員に余裕がある場合、組織のひとつとして設置されることになります。人員に余裕がないときはプロジェクト活動がきわめて効果的に結果を出すことができます。
③の場合のひとつとして、組織的な原価低減活動があります。戦略的に重要な受注を成約したとします。あるいは競争見積もりに参加するときでも同じです。購買、生産、設計などの部門間で連携して、まず目標原価を設定します。たんに会議を重ねても目標原価を決めるだけでも困難ですが、プロジェクトを組織すれば道が開けます。
④の場合はひとりの技術者だけであっても、プロジェクトにすると目的に伴う達成レベル(成功基準)などを明確にすることができます。ひとりの場合は、データ処理などの作業のためにメンバーを追加してもよいでしょう。社外の専門家と契約して定期的にアドバイスを得ることも考えられます。

上記いずれの場合もプロジェクトにすることで効果的に活動を進めることができます。

【4】プロジェクト活動で人が育つ
前項で、人員に余裕がある場合は組織のひとつとして設置されることになると述べました。余裕がないときは、プロジェクトで対応することになります。ここに人が育つというプロジェクトの大きな特長が発揮されます。この特長を成立させるには、例えば開発に関わるプロジェクト(上記④)の場合、経営者の事前の段取りが重要になります。人選はもちろんのこと、達成レベルや納期の設定、アシスタントや社外専門家の有無などの段取りがプロジェクト成功のカギを握っています。社内プロジェクトはメンバーの努力で成功するのではなく「経営者の段取りで成功させるもの」と考えています。