食品が発酵したり腐敗したりするのは、微生物によるものだと発見したのは、仏のパスツール博士で約150年前のことでした。微生物は随分と恥ずかしがり屋だったようでなかなか現れずにいて、人間の歴史からいえばつい最近の発見です。
でも古代の人々は、多くの微生物の力を多岐にわたって活用していました。酒類だけでなく、ヨーグルト、チーズ、納豆、漬物、醤油、味噌など、実に多くの発酵食品があります。微生物はあまりに小さくて眼には見えませんが、その不思議な力を知っていたのです。
発酵の「酵」は、「酉:ひよみのとり」に親孝行の「孝」と書きます。今年は、酉年(とりどし)です。「酉」という字は、酒樽の形をしており、貯めるとか実るという縁起の良い商売の年になるといわれています。樽に貯めたものを、微生物の酵素の力でお酒にしてくれるのです。酵素によって、糖分を餌にして食事をする「分解」という作業です。そして、糖分をアルコールに変えているだけですが、人間がその副産物をいただいているわけです。昔の人は、微生物の酵素を知っていたわけでないと思いますが、本当に上手く漢字をあてがったと思います。
このように発酵は、微生物が糖分を分解してアルコールや乳酸などに生成することいい、食品として活用できます。腐敗は、たんぱく質を分解して、硫化水素やアンモニアを生成することをいい、不快な臭いを発したり有害なものになったりして食品にならない状態です。
発酵と腐敗の違いは、人間にとって有益が害になるかの価値の差です。熟成は、発酵とは違い仕込んだものの細胞にある酵素が、たんぱく質を分解して旨み成分のアミノ酸を増やしていることをいいます。仕込むとか寝かせるともいいます。
赤ちゃんが生まれる時の腸内の微生物は、まったくのゼロです。でも産道を通る時に様々な細菌とも遭遇して生まれます。呼吸して母乳を飲んでいくうちに、赤ちゃんの細胞の数と同じ1兆個の腸内微生物が、短期間で同じ数に一気に増えていきます。
私たち大人の細胞の数は、37兆個ともいわれます。腸内の微生物は、なんと1000余種類、その数は100兆個ともいわれます。人体の細胞の数と腸内の微生物の数が、ほぼ同じで赤ちゃんの時から成長しているのです。
腸内フローラ(花畑)といわれるように、多くの花がバランスよく咲いているから体も腸も調子が良くなるのです。このバランスが崩れて、悪玉菌が多くなると病気になったり、気分が悪くなったりします。逆に善玉菌が多くなれは、健康な生活が維持できます。善玉菌を応援するために、乳酸菌飲料やヨーグルトなどで補てんしてあげましょう。
近年食生活の向上に伴い余りに神経質になり過ぎて、手洗いの励行や過剰な消毒をしています。本来自然に付着して、体に入ってきていた微生物が遮断される傾向にあります。逆に防腐剤や過度の添加物の入った食品を、多く摂取しています。これらを摂取しすぎると、体の抵抗力が損なわれます。
子どものころにご飯粒を畳に落とした時、それを拾って食べることを躾として強いられていました。それはもったいないだけでなく、畳に付着している微生物を摂取するためだったと今さらながら気づきました。体全体のバランスを保つためにも自然に接し、自然の食品をできるだけ摂取しながら、愉快に楽しく人生を謳歌したいものです。