プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第45回 回り道でカイゼン(1)

おつき合いしたい企業を見つける

前回は、経営のプロトコルについてその考え方や実践の事例をお伝えしました。経営のプロトコルは従来業務やプロジェクトなどをテレワーク環境で円滑に進めるためにも整備しておく必要があります。今後もとり上げていきます。
また、本連載でタイムリーな話題をこぼれ話風にご紹介することにしました。今回は「おつき合いしたい企業を見つける」です。「プロジェクトでカイゼン」番外編、「回り道でカイゼン」としてお届けします。

まずは自動車業界との提携交渉がなかなかうまくいかないアップルと、時価総額で業界トップになったテスラの最近の話題です。

【1】日産とアップルの交渉打ち切り
米国アップル社は自動運転技術を搭載した電気自動車(EV)計画を進めており、日産にEV車の生産委託の提携を打診していました。交渉は不調に終わったと、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)電子版が伝えました(2/14)。アップルは、韓国の現代自動車と起亜自動車にも日産と同じような交渉をしていたそうですが、いずれも協議の中断が明らかになっているそうです。筆者の憶測に過ぎませんが、よほど一方的な提案なのでしょう。交渉がなかなかうまくいかないので「相乗りが難しいアップルカー」と皮肉られています。

【2】テスラが自動車メーカーの買収を検討中
ご存じのようにテスラは電気自動車で業界に飛び込んだ風雲児でした。今や、スペースXでは宇宙航空にも乗り出すハイテク企業です。テスラも当初は既存の自動車メーカーからは無視されたそうです。ところが、販売台数では業界トップのトヨタなどを尻目に時価総額でトップクラスに位置づけています。同社イーロン・マスクCEOによると、既存の自動車メーカーの買収を検討中だそうです。彼は次のように言っています(Tech Crunch Japan 2020.12.02)。
「敵対的な企業買収は絶対に行わない。友好的で『Teslaと合併するのも悪くないね』という感じの話なら、乗ってもいい」のだそうです。筆者としてこれは意外でした。日本の自動車メーカーとの良縁につながるかもしれませんね。

次に、筆者が見聞した日産と米国フォード社とのおつき合いの様子を述べることにします。

【3】日産~フォード 共同プロジェクトの成功
現在のわが国でワンボックスと呼ばれるクルマはすっかり業界の売れ筋として定着しています。
米国ではミニバンと呼ばれますが、最初にここに目をつけたのはクライスラーでした。やや遅れをとったフォードは日産との共同プロジェクトを提案し両社で取り組むことになりました。1992年、日産クエストとして発売しました(フォードはマーキュリー・ヴィレジャー)。相応の成果があったので、次期モデルもやることになりました。共同プロジェクトは約10年間継続したことになりました。もし、1999年のルノーの資本参加(いわゆるゴーン改革)がなければ、共同プロジェクトはさらに続いたかもしれません。それよりもこの取り組みで特筆すべきことは、ミニバンの商品開発とは別に両社の技術交流が続いたことです。

【4】両社の技術交流が続いた
お互いにおつき合いして見て、話が通じるところが多かったのでしょう。年に1回、日本と米国とで開催地は交代で技術者が集まり意見交換することになりました。その後10年ほど続いた技術交流ミーティングです。1週間ほど滞在し訪問メンバーは10数名だったと思います。議題はお互いに何を質問しても良いのですが、ひとつ決まりがありました。それは質問事項について「わが社ではこうしているが・・」と質問の背景を説明することでした。それさえ守れば何を聞いても良い、こういうルールで自由闊達にやっていたのだと思います。

開発課題以外の質問もあったそうです。フォードでは「プレス金型の製作期間が長すぎて困っている。日産ではどのくらいかかっているのか?」、「ものにもよるが、3~4ヶ月ほどかな」。フォードの半分ほどの期間なので、これを聞いて彼らは「信じられない!」とその場では半信半疑だったそうです。彼らが帰国後、一通のメールが日産に届きました。プレス金型を試しに日産で製作してもらいたい。つまり、金型の注文書でした。実際に現物で確認してみたくなったのでしょう。

見積書を提出し、製作完了し相手に無事送り届けることができました。日産としては通常の仕事なので何も問題はありません。ただ、請求額が当初の見積金額よりも10%ほど高くなったそうです。担当者は気にしていましたが、フォードは何も文句を言わずに支払ったそうです。担当者の感想は「フォードはおおらかな会社だ」とのことでした。おおらかさの背景には、技術交流のミーティングを経てお互いの信頼関係ができていたからでしょう。

【5】おつき合いしたい企業を見つける
共同プロジェクトと言えば、ドイツVW社の「フォルクスワーゲン・サンタナ」の組立生産を日産座間工場でおこなったことがありました。1984年のことでした。日産としては、車体のしっかり感など設計や生産ともに多くの学ぶことがありました。とはいえ、1988年には提携解消しています。やはり、両社の相性ということは良い関係のためには大きな要因のひとつでしょう。同業者でも企業の個性や社風はさまざまです。本稿の初めに紹介したアップル社においては、生産はすべて外部委託です。テスラ社は自社工場で生産しています。

ものづくり企業が商社と提携するといったことも普通に行われています。良縁を見つけるには共同プロジェクトをやってみるのはお薦めのやり方のひとつです。同業種か異業種かに関わらず、相手先企業の個性や社風を理解する良い機会になります。同時に、自企業の強みや課題なども見つけることができます。