前回は、わが国は信頼の社会であることを筆者のロシア出張体験との比較や江戸時代から存続している富山の置き薬ビジネスなどを紹介しました。そもそもこのような信頼の社会はわが国以外にはほとんど存在しないので、そういう場合のために「契約」があることもお伝えしました。わが国は信頼ベースの社会なので契約に弱い傾向がありますが、信頼こそが組織や個人の活力を最大限に発揮するもとになります。
今回は、戦時に限らず平時においてもみんなで集まれば良い知恵が出るチームをつくるために必要なことをお伝えします。
【1】天才でないふつうの人がどんどん成果を出せる国
ドイツの自動車産業は、フェルディナント・ポルシェ(1875~1951年)が発展の基礎をつくったと言われています。で、問題はその後です。彼の代わりになるような天才がいなくなったらその後が全く続かなくなった。筆者には天才リード型の産業構造の典型のように見えます。排ガス不正に走らざるをえなくなったことに代表されるように、技術革新が停滞しました。ハイブリッドでは日本に、電気自動車では中国に、いずれでも完全に出遅れています。
わが国にはポルシェのような天才はいなくても、トヨタのハイブリッド、マツダの高効率エンジン、日産の電気自動車など無名の人たちが協力して成果を出しています。みんなで協力して目標を達成することは、わが国のお家芸と言えるでしょう。
【2】ふつうの人が成果をどんどん出せる訳
わが国固有の理由として三つあると思います。
①教育システムがすべての国民に広く普及している
教育の機会均等が100%保証されているかと言えば難しくなりますが、各国との比較の問題です。わが国は「大器晩成」型です。教育投資という面で早々に見切りをつけない。これは企業内でも同様です。入社してからも、OJTがあります。従って、経験を重ねるごとに腕を上げていくことができます。
②みんなで力を合わせることができる
我われとすれば当たり前のことですが、各国ではこれは非常に難しい、というかできない。筆者はみんなで協力していくスキルのことを「すり合わせ技術」と名づけました。欧米では基本的にボート経営にならざるを得ない一因は、すり合わせ技術が存在しないからと思われます。
③経営者がおみこし経営を指向する
経営者と従業員が敵対関係にある、これは欧米のような階層社会では珍しくありませんが、わが国では稀有なことです。おみこし経営の核心は、多様な意見を受け入れることです。誰でも指示されたことをやるより自らの意見が取り入れられるほうがやる気がまるで違います。
【3】集まれば良い知恵が出るチームをつくるために
従来の現場カイゼン活動に対して、これからのカイゼン活動はより広範で未体験のものが要請されることになります。従って、いくつかの職場が集まったり、場合によっては他社のメンバーとの協同活動になることもあるでしょう。従来よりも次のようなことを配慮していくことが必要になりますが、これらについては新時代に対応するカイゼンのバイブルと呼ぶべき良書が既に刊行されています。
そうです!「カイゼン4.0」がそれですね。日本カイゼンプロジェクトの柿内会長執筆で、本年2月に発行されました。以下、チームづくりの観点から『カイゼン4.0』の内容をつき合わせてみます。
①多様なメンバーをそろえる
KZ法では、製造現場の問題であっても、購買、技術、物流、経理などさまざまな部署の人たちが集まります。それぞれの立場からの見識をもって参加します。これは大事なことで、カイゼンのために安易に妥協することは副作用として思わぬトラブルのもとになります。独立した立場から的確な判断をおこなうことが欠かせません。また、このようなイベントを通じて参加者がそれぞれ固有の知識を深めるきっかけにもなることでしょう。KZ法は多様なメンバーをそろえることに、とても有効なやり方であることがわかります。
②チームの意見をまとめる
KZ法は社長が参加しますから、経営者が迅速に意思決定することができます。これは戦時に限らず、平時においても重要なポイントになります。
カイゼン案件によっては、チームで検討を進め結論を出すことがあります。経営者はチームの結論を尊重し決定することになります。この場合は、チーム内の意思決定のやり方に工夫が必要になります。
もちろん、ここで妥協や多数決でベストな案を決めるというわけには行きません。ここでファシリテーターなどが必要になります。『カイゼン4.0』では、カイゼンを促進し実務に展開させるファシリテーターが必要であることが書かれています。これと同様な役割をチーム内の意思決定に役立たせるわけです。同書では、新商品開発で他部署の新人が素晴らしいアイディアを出した事例なども紹介されています。