プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第27回

信用と信頼・・わが国独自の強みを活かす

前回は、主要先進7カ国の労働生産性の順位の変遷においてわが国は約50年間ずっと最下位を続けていることをとり上げました。この理由として生産性の数値を算出する仕組みが他の6カ国に対して日本社会には全く適合しないのではないかと指摘しました。それは、これまでわが国が当たり前として持ち続けた価値観が他の海外諸国と全く異なるからではないかと考えられることを述べ、強みを活かすアプローチをとり上げました。その中で欠かせないビジネスの原則として「いいものを安くつくる」がありました。今回は、この原則について再度述べることにします。この原則がゆるくなっていることが、わが国の競争力低下の一因になっているのではないかと考えられるからです。

【1】わが国独自の強みは信用と信頼
わが国の企業経営で当たり前として持ち続けた価値観として「三方良し」や「企業の永続性」などがありました。その延長上に、わが国の製品やサービスには他国に無い信用と信頼という独自の強みがあります。ここでは、まず他国の悪い例、次にわが国の良い例を述べます。いずれも、クルマ業界の話題になります。

1.ドイツ車のディーゼル排ガス不正事件
2015年に発覚したこの事件は、VW、BMW、ベンツ、アウディなど全てのドイツ車が不正をおこなっていました。事件そのものは、現在はその賠償訴訟に移行しています。莫大な賠償金を支払っても、各社ともシェア低下の恐れはありません。ディーゼル車排ガス対策の技術をクリアできないので各社とも組織ぐるみで不正に走る。我われ日本人にはちょっと考えられない行動です。企業経営の価値観として、儲かるためには手段を選ばずといったことを感じます。業界すべての企業が同じ不正行為に走ったことは、そういう共通した経営の価値観が存在しており、それに基づいているからでしょう。

2.中東地域の戦乱の現場で実証された信頼性
世界のニュースが同時通訳付きで放映されています。筆者は各国のニュースを見ていますが、その中のひとつにカタールの放送局アルジャジーラのニュースがあります。ここのニュースは、紛争、戦闘、戦乱などがほとんどです。政府軍や反政府軍の車両移動の場面をよく見かけます。その中で1トントラックがひんぱんに登場します。そのメーカーはほぼ100%トヨタなのです。このクルマは明らかに軍事用ではなく民生用ですが、軍事に転用しても、紛争や戦闘の現場で絶大な信用と信頼があるのでしょう。故障しない、壊れても修理が容易、補修部品が即納される等などの理由だろうと思われます。このような現象は、わが国製品に対する信用と信頼を代表していることであると思っています。

【2】再びビジネスの原則を考える
前回、ビジネスの原則はシンプルであり、資本主義社会では「いいものを安くつくる」が大原則と述べました。同時に「品質が良いのだから高く売る」あるいは「質が良くて長持ちするのだから高く売る」ことはできず、品質とコスト、この両面をクリアしない限り競争に勝てないと述べました。
日本企業の競争力低下の原因はこの辺りにあるように思います。
新興の海外生産国と同等の価格競争は難しいかもしれません。しかしながら競合製品では競争をあきらめることなく、生産コストの見直し、スペックの合理化など、できる限りの努力、カイゼン活動を継続しなければなりません。
¥100ショップは相応の品質でわが国に定着しました。ところが、生産財や耐久消費財となると、たんに安ければ良いということでもありません。ローコスト製品の信頼性についてユーザーは限界を感じつつあることも事実です。
しかし「それなりに高く売る」という発想では大原則に反します。「いいものを安くつくる」大原則にそってカイゼン活動を進めていくことが欠かせません。