プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第165回

プロジェクトチームの休憩室(13)

連載の前回は、ビジネスのおつき合いで折衝や交渉の次の機会を無くさないことを話題としてとり上げました。先方が今後もお付き合いを継続したいという明確な意思表示がある場合、次の機会をもつことはさほど難しくないでしょう。ところが、先方の要望や好意・好感が潜在的なものであったりすると、こちらとしては先方の意思を明確に把握できないことも少なからず起こります。また、相手の対応としてちょっと意地悪なこともあります。お付き合いを始めたい(あるいは継続したい)意思は大いにあるのに、わざと逆の反応を見せることもあります。お付き合いする立場としては、そのような状況を明確に判断できないことも少なくありません。どのような場合であれ、これまで述べてきたように、次の機会を無くさない、つまり交渉の接点や窓口を確保しておくことが欠かせません。そのためのひとつの手段として「接待」を取り上げました。今回はこの続きになります。交渉や対話の場を継続させるための接待のもつリスクについて述べることにします。


見え見えの過剰サービス
いぜんに本で読んだことです。MR(医療情報担当者:製薬企業に所属して医師や薬剤師などに対して自社で扱う医薬品の情報を伝える専門職)の経験談のひとつがありました。MRであるAさんは大手B病院へ自社医薬品の売り込みに成功して継続した取引が成立していました。AさんがB病院の院長から「Aさんは良いMRだ」との好意ある評価をもらったことがきっかけだったそうです。それはAさんが「院長のお孫さんを毎日幼稚園に送り迎えをしてくれるから」と書いてありました。この事例は30年以上前のことでしたが、当時はそういうことが許されたのかもしれません。現在のような情報化社会ではこのような見え見えの過剰サービスは存在しえないことです。法令や企業内のルールからの逸脱としても問題になりそうですね。

接待ゴルフが法令違反にならないやり方はあるか
ここで、接待とは無償のサービス提供という意味で使っています。現在でも接待に関わる当事者からはかなり都合良く安易に解釈される傾向があります。そのサービスが一般的に有償で当たり前ということでしたら、それを無償で提供することは法令順守とは逆行するリスクをつねにはらんでいると考えられます。従って、一方的な接待ゴルフは法令違反になるでしょう。前回のこの欄で事例として紹介した「誘われたら、こちらから誘い返す」ことはサービスの対価を両者で相互に負担することになるので「一方的ではない」。従って、これなら社会通念上許容されるという解釈でした。

社会通念上許容されるとは
とはいえ社会通念上許容されるという表現そのものが、本件の潜在的なビジネスリスクを暗示しています。同時にリスクだけでなく、筆者は時代錯誤を感じます。もはや「接待○○」という考え方や行動そのものが、我われが生きている現代の日本社会にはきわめて似つかわしくないもの、適合しないものだからでしょう。しかしながら、そのようなことが未だにビジネスの現場に存在しているので「許容される範囲はどこか」が関心事として取り上げられるのでしょう。

贈収賄は犯罪として摘発・処罰されます。事件があれば報道されますし、それは明白な犯罪行為として社会的に広く認知されています。企業の社則に「贈収賄をしてはいけない」と明記する企業は恐らく無いでしょう。贈収賄は悪事という認識が社会にしっかり定着しているので、わざわざ言うまでも無いことだからではないでしょうか。と言っても、以上は民間の企業活動に限っての筆者の見解です。政治の世界では、民間企業と比べてこの種の報道が多いように感じます。贈収賄について言えば、わが国の問題点は、たぶん、利権がらみで政界領域に接するところに集中しているのではないだろうかと思っています。これに関連して海外出張時に見聞きしたことを順次述べていくことにします。

海外出張で日本の優れたマネジメントを伝える
欧州のC国に、日本の優れたマネジメントを伝えるためにセミナー講師として出張したことがあります。同国の首都や地方都市など含め5年間で5回出張し延べ20都市をセミナー講師として訪問しました。受講者は中小企業の経営者の方々で、通訳をつけての二日間コースが開催されました。どの都市の会場でも受講者の皆さまはきわめて熱心で多くの質問があることに驚きました。

ちなみにわが国の場合、セミナーにおいて講師への質問はさほど多くありません。質問はけっこう難しいもので軽々とやってはいけないという受講者として暗黙のルールがあるように感じます。そこで、講師としては「質問でなくても、単にこの辺りがもやもやしているといった感じでけっこうです」とお伝えしても、なかなか質問は増えません。でも、受講者として疑問や質問が全く無いわけではありません。というのは、セミナー終了後にわざわざ講師席に来て質問される方が少なからずあります。どのセミナーでも、いつもこういう傾向が共通しています。疑問や質問はあるが、セミナーの公式の場ではしないということになのかなと思っています。