プロジェクトでカイゼン [Project de Kaizen] 第120回

プロジェクトのゴールはどのように見えるのか DX時代のプロジェクト(その4)

前回は、ゴール設定について定量的な尺度よりもリーダーの思いや熱意などの主観的な要素で決まる例を紹介しました。例えば、職場のレイアウトを一新するとき、関係者全員の総意で決めることもありますが、企画者の思いで決めることを紹介しました。既存の組織再編なども同様でした。関係者の総意ではなかなか合意できにくいことも多いので、やはり、企画者や経営トップが決めることになります。また、部門横断チームで改革課題に取り組むケースを紹介しました。この例ではプロジェクト全体を力強く進めるベテランの存在が大きかったことを説明しました。
今回はプロジェクトのゴールはどのように見えるのかを、わが国の自動車メーカーにおける電気自動車(BEV)の商品展開をもとに説明します。BEVはこれからのクルマ社会の世界の潮流になる中で、各社のゴールが消費者からどのように見えるのかを述べることにします。

【1】電気自動車(BEV) 世界の販売状況
昨年(2021年)の世界のBEV販売台数は650万台(全乗用車の9%)に達しました。メーカー別ランキングでは、1位テスラ(米国)、2位BYD(中国)などです。日産は2010年、世界に先駆けて完全なBEVである日産リーフを発表しました。その後、10年間の販売は50万台以上にも達しました。ところが、日産は昨年20位以内にさえランク入りできませんでした。
本年(2022年)の販売台数としては900万台を突破し前年度の40%増との予測値があります。全乗用車の13%ほどに増加する見込みです。要するにBEVは欧米や中国を中心に増加し続けています。2030年にはガソリン車は販売できなくなりますから、増加の勢いはさらに続くでしょう。

【2】電気自動車(BEV) わが国トップ3社の販売状況
日産 リーフに続きアリアやサクラなどを発売
2010年、世界に先駆けてBEVとして日産リーフを発表しました。2021年の販売はこれまで先行した実績の割には全く振るいませんでした。昨年1月、ようやく日産アリアが発表されました。いかにも北米市場向けにフィットしそうな出来映えです。しかしながら、BEV先行メーカーとして取り組みが遅すぎました。テスラなど世界のBEV市場の拡大に指をくわえて見ていただけだったのでしょうか。本年5月、軽自動車のBEV日産サクラを発売、補助金効果もあり快調な販売を続けています。軽のBEVとしてニーズを把握し尽した企画が大成功しました。

ホンダ 2030年にEV200万台生産
三部社長は説明会で次のように発表しました。2027年までにEVをガソリン車並のコストに下げる。2030年までに全世界で30車種のEVを投入する。2030年時点でEVの生産台数を年200万台とする(日経ビジネス電子版 2022.4.13)。

ホンダは昨年、今後の方針を打ち出しましたが、今回さらにその詳細が追加されたことになります。ホンダスピリットでは「真似をした時点で世界一になれない」ということで、電池についても自分たちで取り組むことになるでしょう。電池について日産の場合はNASAとの共同開発でしたが、ホンダは独自の開発になるのではないでしょうか。

トヨタ BEVで大幅に出遅れた世界トップ企業
大成功したハイブリッド車への執着のせいか、トヨタのBEVへの取り組みがよくわかりません。社長によるテレビコマーシャルは頻繁に放映されていましたが、その割に本気度が伝わってきません。あれもこれも本気、選択肢は多いほうが良いという訴求でしたが・・。

まず、FCV(燃料電池式電気自動車)ですが、これはEVプラス発電装置が加わりますから、構造が複雑になります。またH2(水素)ガスステーションが新たな社会インフラとして欠かせません。これはガソリンスタンドよりも厳しい建築基準があります。政府が1箇所あたり3~4億円の補助金をつけていますが、全国での設置目標300箇所は難しいでしょう。肝心の燃料費も既存車並のレベルということですから、「本気で」マイカーとして購入するのは難しいでしょう。
H2ガスエンジン車は社長がレースカー搭乗のTV宣伝があります。これもH2ガスが必要ですから実用化は難しいでしょう。

BEVについては実物モデルをずらりとならべたテレビ宣伝を見ました。20台近く揃ったようです。もっとも、ほとんどは単なる展示用の造形モデルだったそうです。将来はこんなに多くの車種がありますよということは、今はまだ無いということです。完全な出遅れ感は否めませんでした。
出遅れは、メーカー各社の投資時期でも明らかです。多くの他社の投資は2030年までですが、トヨタは2035年までとなっています。
また、トヨタ初となるBEV『bZ4X』は、SUBARUとの共同開発車でした。運の悪いことにこのクルマは電池などとは全く関係の無いつまらないところでリコールを届け出る羽目になりました。

トヨタ社長は「敵は炭素 内燃機関では無い」と主張しますが、筆者には「BEVは大嫌いだ」としか聞こえません。大嫌いだから、大きく出遅れてしまったのですね。社長の好き嫌いが企業の商品戦略を左右する。しかもそれが世界の潮流に大きく逆らっている。世界的企業としてレベルが低すぎるとしか思えません。

【3】各社のゴールは見えるのか
ホンダ
とくに目立つ商品や企業としての特別な活動があるわけではありません。しかし、ホンダの企業文化から消費者としては将来に向けて大きな信頼感をもつことができます。例えば「2027年までにBEVをガソリン車並のコストに下げる」などです。企業の目指すゴールがよく見える好例と言えます。

日産
10年以上も前に世界初のBEVを発売、最近の軽自動車BEVの大ヒットなど話題性満載なのですが、企業がどこに向かっているのか、何を目指しているのか、そもそも企業のゴールがどこにあるのかさっぱりわかりません。長期にわたり存続してきた実力があるだけに惜しい存在と言えます。

トヨタ
社長の発言は多くの選択肢をもつことが正解であるとの趣旨なのでしょうが、そうは聞こえません。世界の潮流に逆らって、どういうゴールを目指しているのか全く見えません。今のままでは世界的大企業に待ちうけているゴールは、グループ全てを巻き込む混乱でしかないように見えます。

企業活動の全てをひとつのプロジェクトとして捉えることができます。企業のゴールがどこにあるか、顧客や社内外の関係者など全てに対してよく見えるようになると、それだけ理解者やファンが増えることになると考えています。