新・虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第21回

ヨーロッパの住宅と日本の住宅の違い

● ヨーロッパは基本的に石で家を建て、そして寿命もとても長いです
 ヨーロッパの家づくりは、基本的に石です。実際には、断熱のために穴の空いたブロックやレンガで、さらにセメントで接着させて積み上げます。意外にも鉄筋は入っていませんが、地震が滅多にないので心配ありません。
 訪問する会社には、工務店や建築業者に依頼することなく、本人が家族や友人と一緒に家を作った話を多く聞くことができました。最初は疑ってしましたが、実際にその家を見させてもらうことあり、彼ら自身で家を建てることは珍しいことでないと知りました。中にはトルコからやってきた社員が、半年間で家を自ら作った写真も見せてもらいました。どれもほぼ半年で完成させています。しかも仕事の合間の休日を使ってです。
 私の父の時代は、自分で家を建てていました。家の中の壁も竹を割って、藁を切って土に混ぜてコテで壁塗りをしたり、私自身も手伝いました。今の自宅は20年前に工務店で建ててもらいましたが、近年では誰も自分だけで家を建てたことを噂にも聞いたことがありません。
 今ではクレーン車がやってきて、1日で骨組みを一気に組立てます。あとは大工さんが、コテコテと細工をしながら作っていきます。でも材木の廃材がたくさん出てきますが、もっとプレ加工すれば現場での廃材が少なくなると思うくらい出てきます。
 ヨーロッパ人は、本当にマメです。基本的にブロックやレンガを積み上げていく方式です。あとは水平器で並行出しをすればよいので、精度は余り問わなくて良いかと感じます。自分で作ってしまおうという勇気には感心します。そして材木などの廃棄物も、あまり見かけません。家の値段を聞くと意外にも、日本と余り変わりませんでした。
 しかし耐用年数は、まったく違います。日本の木造住宅の寿命は約30年と言われます。これは世界でもまれな高温多湿の環境、そして建築業者の儲け主義による粗悪な材料の使用や手抜き作業が蔓延しているなどの要因があります。ドイツの住宅の寿命は平均80年くらいで、通訳の家は築後350年の文化財になっていますが、数百年という家がまだまだヨーロッパにはたくさん残っています。
 ヨーロッパでは家を中古で買っても、いざ売る時は買った時よりも高く売れることが多々あります。その浮いたお金は、車や旅行などに回しています。ですから毎年国外旅行などに回すことができます。日本では、売る時は二束三文の安さです。家のローンが終われば、人間の寿命も終わりという時代になっています。

● さらに違うのが窓の構造です。断熱性も違います
 日本では、障子や引き戸の文化があります。特に狭いスペースを活かすために、引き戸の考え方が和式には多く用いられています。洋風に使われるドア式の開き戸は、ドアが開閉するスペースが必要になります。
 ドイツに行って気づいたのが、窓がすべて開き戸になっていたことです。さらに変わった点として、1つのドアノブで窓の開閉と手前側に傾斜をつけて換気ができる方式になっていることでした。これを「ドレーキップ窓」というものです。ドイツ語の「ドレーン」(引く)と「キッペン」(掛ける)を組合せた言葉です。つまり、窓を日本では外に向けて開きますが、ヨーロッパでは家の中に窓を引き込みます。そして傾斜するのも内側に倒します。これがとても便利です。最近日本でも販売されるようになりました。
 特に換気を少しやりたい時に、一気に風が入ってこないのでとても快適です。しかも閉めた時の密封性もとても良く熱の遮断が素晴らしいのです。実はこの窓の製造メーカーも、さらに販売店にもコンサルに行っていました。
 なぜこのような構造になっているのかと訊ねたら、ヨーロッパ人は室内で直接外気に当たると悪魔に襲われるというのです。迷信のようですが、冬場は一気に風が入り気温も下がり、風邪を引くからだと思います。日本でも夜に爪を切ると親の死に目に会えないという諺があるように、自重しなさいと言い伝えられているようです。
 さらに便利なのは、内側に窓を引込むことができるので、外側のガラスを全面キレイに磨くことが簡単にできるのです。アパートの窓は北も南も幸いにベランダがあり、閉めたままで掃除ができてとても便利でした。日本の業者もこの方式を知っているはずですが、取付方法が面倒なのか儲けにならないかやろうともしてくれません。でもその他の住民は、すべて窓を引いて磨かなければなりません。ベランダのあるアパートの最上階の特権です。
 ドイツでは、隣の家の窓ガラスが汚れていると、隣の住民たちがその家に行って注意をすることが当たり前になっています。そのためにドイツの窓はとても綺麗になっています。

● 温暖化により夜も室内が30度以上、しかも冷房はありません
 石の建築物の問題は、最近の温暖化による高温化です。2000年前までは、30度以上になるのは年に数回程度で、冷房はまったく必要ありませんでした。10年ほど前から30度以上になることが多くなり、近年は40度以上になり観測史上初めての高温などとニュースになるようになりました。
 1週間も高温が続くと、家全体が暖炉のようになって、夜になっても30度以下に下がらなくなってきます。ほとんどの工場やホテルに冷房設備がなく、連日の暑さでまるでピザになった気分です。
 アテネでは、8割以上の住民の家に冷房設備がありません。結構貧しい生活です。日中に子どもや老人は、冷房の効いたデパートや公共機関などに行って涼を取ることが許されているほどです。
 ドイツでは、キンキンに冷やしたビールはありません。感覚的には少し冷えた程度ですが、暑いととても美味しく感じます。暑い時はデパートが冷房の効いた喫茶店に駆け込みます。電気屋でよく売れ始めたのが、何と扇風機なのです。ローテクが大活躍ですが、扇子も団扇もありません。逆に売り込むと売れるかも知れません。