新・虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第6回

日本とドイツの労働生産性の違い

● ドイツの現場における現場力はマイスター制度のお陰
 皆さんもお聞きなったことがあるドイツのマイスター制度は、ドイツの職人かたぎを育成する優れた制度だと思います。技術だけではく、経営、開発、教育と4つのバランスの取れた指導が、後輩に厳格に伝承している素晴らしい制度です。
 日本は、技術を師匠や上司から目で盗むという風習や習慣があります。師匠や上司は、部下に対して直接指導をしないで、目で盗んで自ら覚えよというやり方です。
 形式知までも教えようとしないのは閉鎖的な考え方であり、現代のように後継者不足の時代では、このやり方では人財育成にとても問題があると考えます。
 ある程度は形式知を共有化しながら、その先の暗黙知は興味をもった人に伝授しながら、基本を師匠から徹底的に学びその型を守ります。さらにより良いやり方があれば既存の型を破り、その型から自由になり型から離れて自在になるという「守破離」の考え方で取組めばいいと考えます。しかし、それを待っている時間は日本の労働事情には残されていません。
 今は日本だけでなく、ドイツ、ハンガリーなど各国でも特に技術者が不足しています。待っていられない状況になっています。若い技術者に興味をもたせながらも、自分で考え、自ら考動し、自らの価値を高める人を一人でも多く育てていく、本当の意味の人財育成が必要です。
 ドイツのマイスター制度は、古くは中世時代からあり1953年に法律が整い現代にも受け継がれています。マイスター制度の枠組みは、2つあります。1つは、手工場でパン、お菓子、食品加工、ビール製造、靴など94種あります。
 もう一つが、工業(産業)マイスターと呼ばれるもので、300種以上もあります。電気整備、情報技術、金属加工、自動車整備などがあります。3年間は座学と実習を繰り返します。訪問先の企業でも、何社かは自社内に学校をもっています。
 最初の2ヶ月は、女子も徹底したヤスリ掛けを行います。意味あるかと訊ねたら、「意味は感じないが慣習だから」と答えが返ってきました。基本を徹底して行うことに、彼らの底力があると想像できます。

● 教える側のコミュニケーション能力とそのスタイルの違い
 マイスターは、技術だけの伝承かと思えばそれだけではありません。マイスターは、小さな工場長のような存在です。ですから技術だけではなく、経営面でも対応しなればなりません。マイスターになるための4つの柱があります。
 ①後輩を指導する教育力、②会社を成長させる経営力、③高品質を生み出す技術力、そして④新しいものを生み出す開発力があります。ドイツは以前とても貧しい地方であったので、何とかするために手に職を身につけることが求められました。それが技術力などを高めることになったのです。
 マイスター制度の優れていると考える点は、マイスターが見習い工にどんどん教えることです。日本のように、技術を黙って盗めとは真逆です。丁寧にわかるまで教えながら、コミュニケーションをとっていくのです。
 このことはとても大切なプロセスです。説明する時にもっとわかりやすく説明するには、どうしたらよいかなど教える側も勉強するのです。この姿勢は日本も見習ってほしいと考えます。双方のレベルアップが、短期間にできるようになると考えます。
 南ドイツはとても保守的な民族ですが、ものをとても大切する習慣があり、捨てないで何か応用できることをいつも考える習慣ができたようです。日本でいえば、トヨタのある三河地区です。黙って後輩に背中を見せて教育するスタイルから、もっとフェイストゥフェイスでコミュニケーションを上手く取るようにして、相互のレベルアップができる環境を整備が必要だと思います。

● 自分以上の人間を何人育成したかが、上司のモノサシ
 松田が考える上司の役割の1つに、人財育成があります。それは人を踏み台にしてのし上がるのではありません。部下は踏台ではなく、会社の財産です。会社の付加価値を高めているのは、実際に現場で働く人たちです。
 働きやすい環境を整備してあげることともに、人財育成があります。松田の定義ですが、「自分以上の人を何人育成したかが、その人を評価するモノサシ」だと思います。そうすると部下の皆さんが、あなたを部長、工場長、事業部長、社長へと押し上げてくれます。
 その良い実例として、Tさんを紹介します。彼の会社は約150名の中小企業です。12年前に一度社をクビになったTさんは、1年後にまた復帰しました。その時にワークショップで私と出会い、改善に目覚めたのです。そして、改善コーディネーターになりたいと自ら手を挙げたのです。
 訪問のたびに、彼に徹底的に英才教育(一種のえこひいき)を行いました。素直だった彼は、その後マイスター学校に通い、仕事でも皆さんから信頼される人に変わってしまったのです。
 Tさんは、29歳の時に皆さんから慕われて工場長に就任しました。その後夜間大学も卒業し、工場長の役目もきちんとこなしています。ほとんどが彼より年上で、しかも自分お父さんまで部下にしている頼もしい上司に成長しています。また彼の結婚式には社員全員が参加したといいます。彼の会社ですが、経常利益率は30%以上もあり堅調です。