モノづくりの現場探求 第一回

適正在庫について 1 ~まとめ買いは銭失い、在庫は罪固ってホント?~

10回にわたり『柿内幸夫の○○なカイゼン』シリーズをお読みくださりありがとうございました。私が振り返って特徴的だったカイゼンをお伝えして参りましたがお役に立てましたでしょうか?今回から、少し趣向を変えて、現場でよく使われている言葉で、一般的にそうだと思われているけれど、本当にそうだろうか?といったことについて解説いたしたいと思います。第一回目は「まとめ買いは銭失い、在庫は罪固」のお話しをいたします。

つい先日のことですが、化学品を生産するE社の倉庫でカイゼンをしていました。2ヶ月前と比べると一部の原料在庫が大幅に増えていましたが、現在世界中で起きている緊急事態対応だと一目で分かりました。私は「非常にタイムリーな対応ですね」、と褒めるつもりで工場長の方を見たのですが、彼から「すみません、先生からは叱られると思いますが、この時期はモノが買えなくなる恐れもあり、早めにまとめてたくさん買いました」、と言い訳(?)の言葉が出たのです。私は褒めるつもりでいたのに、工場長が先に謝ってきたのがとても不思議でした。ナゼですか?と尋ねると、以前に指導を受けていたコンサルタントから「在庫は罪固」と教えられ、毎回在庫が増えていないかを厳しく追及されていたからとのことでした。しかし、現在の様に全く先が読めない未経験の状況下に於いて、もし代替え不可能な材料が切れてしまったら生産ができなくなります。私はコストより経営の安全性を優先するべきと考え、この場合のまとめ買いは正しいとしたのです。

実際のモノづくりにおいて、その時の状況や業務の内容などのいろいろな条件で在庫の持ち方は変わるはずです。普段の状況では、在庫を減らしても問題が起きないカイゼンをするべきですが、当然その逆の時もあります。今はまさにそのタイミングです。カイゼンを多くの人の参加で実行するに当たって、,「在庫は罪固」のような分かり易い言葉があるととても便利なのですが、真の理由をしっかり理解しないで、ある一面のみをとらえた言葉を鵜吞みにしてしまうと、間違った経営判断をしてしまう恐れがあります。

納入が保証されかつコストが同じなら、必要なモノを必要な時に必要なだけ買うのが最適です。しかし実際には、買う頻度が増えれば運賃や構内物流費、そして管理費が増えます。あるいは品質が100%信頼できないようなモノを買わなければいけない場合、歩留まりを上積んで買う必要があるでしょう。そして今回のような想定外の事態ではどう対応するかです。

E社では切れたら大変ということで一部の材料を早め多めに買いましたが、一方で、今後の対応として、全く買えなくなった場合の準備も始めています。設計は購入ルートが限られた特殊材料を使わないあるいは減らせる製品の開発を始め、購買はこれまでの購入ルート以外のルートの開拓を始めました。営業はお客様が自社製品をどのように使っているかを調査して、お客様にお勧めできる代替品を探しています。そして製造は、材料歩留まりを上げるカイゼンに力を入れています。

在庫は非常に奥が深いテーマです。サプライチェーンが安定している時は、在庫が増えると経営を圧迫するので「在庫は罪固」でした。しかし今回のような非常事態になると在庫がたくさんあることが良いという事態になる可能性もあります。幅広く考察することが必要です。お困りのことがありましたら、私達日本カイゼンプロジェクトにお問い合わせください。専任講師がお答えいたします。