虫の眼・魚の眼・鳥の眼 第17回:マグロは時速80kmで泳げるか?(その2)

バイオロギングという方法で速度を正確に測定

 この10数年くらい前から、センサーや測定機器のデジタル化や高精度化、さらに小型化が一気に発達してきました。ペンギンやアザラシさらにはアホウドリなど動物に直接この記録機器を取り付けて、後で回収して解析する手法が開発されました。それを「バイオロギング」というのですが、今まで想像だけの生態や間接的に計測していた動物の行動実態が分かってきたのです。しかも信じられない結果の数々に、それぞれの動物の持っている能力の凄さに感心することばかりでした。
 面白いことに水中での速度が速いのが、意外にもヨタヨタと歩くペンギンであったことです。さらに「ジョーズ」の映画のモデルになったホオジロザメ、そしてシロナガスクジラの平均速度がなんと時速8kmだったのです。そしてあらゆる海洋動物の水中での巡航速度も、この値になることが段々と証明されるようになったのです。はやり水中では空気抵抗と違ってまったく抵抗が大きくなり、さらに速度が増すことでも一気に抵抗値も高くなり、動物も疲れてしまいます。物理的な制限があったことが見えてきます。
 ですからマグロもカジカもこの程度の速さで、瞬発的な速度はせいぜい時速30km程度なので、図鑑などの数値は考え直した方が良いと思います。さらに個体の数を増やして精度を上げていけばよいのです。実際に動物に直接測定器をつけて、その行動記録を回収できる仕組みの構築がこのような分析を可能にしたのです。海洋動物の平均速度は、時速2から4kmということもわかってきました。この方法で記録したものとして、アホウドリは46日間で地球を一周することができ、マッコウクジラやゾウアザラシはなんと2000mまで潜ることができ、ウミガメは10時間も息継ぎなしで潜っているなど興味ある事実が分かってきたのです。
 この本「ペンギンが教えてくれた物理のはなし」 渡辺佑基著 を手にした時、2010年夏の惑星探査機「はやぶさ」の60億kmの宇宙の旅の帰還と同じくらいの感動を得ました。魚の眼で実際に観た速度は、今までの常識から一桁も違っていたのです。


図鑑にあるからといっても、常識をまず疑ってみよう

 インターネットで検索すると、すぐに多くの図鑑や資料から調べたいことがすぐに見つけることが可能になりました。しかし、それをそのまま鵜呑みすることではなく、少し違った視点でみたり、他の方法で検索したりして、多角的に観ることにしてできるだけ客観性ある答えを見つけたいものです。そしてその答えがあったとしても、さらにもう一度疑ってみることで、気づかなかったことに気づくことがあるはずです。
 今回は水中ではかなりの抵抗があり、世界記録の陸上では100mを10秒で走れますが、水中では46秒も掛かり、約5倍の差が出てきます。従ってカジキやマグロだと言って流線型の形をしていても、水中ではかなりの抵抗があり、彼らも無理をしてまでも餌を追いかけることはないはずです。回遊する移動の時は全速力ではなく、燃費の良い巡航速度があり、それが時速8kmにすべて収まるのは逆に納得がいく値です。魚に測定出来る機器を取り付けて、実際に測定する発想は事実を掴む良い手段です。